〈あらかたは食へる野の物敗戦日/池田崇〉な終戦記念日に毎日新聞を買った。伊藤一彦選〈突然の葬儀に結ぶネクタイを首が拒否する断固拒否する/朝岡剛〉絞首刑を連想させる。〈人見知り激しき吾娘は心地よい居場所をいまだ見つけずにいる/寶満光保〉家もダメなのだろう。うちの吾娘は人見知りはあまりないけれど場所見知りが激しい。〈その家に染みついたやうな哀しみを見ないふりして電球交換/池崎冨実夫〉と〈あと何回この人生にあるだろう 蛍光灯の切れた薄闇/竹谷友之〉は電球・蛍光灯切れでつながる。米川千嘉子選〈睡眠薬千枚通しで割る母を思ひ出しけり寝苦しき宵/三井一夫〉昔の睡眠薬だから癖がつくだろう。千枚通しのインパクトが大きい。加藤治郎選〈わたしだけバンジージャンプのゴム紐を首にとりつけられた気がする/庄井陽樹〉唐突に疎外感。篠弘選〈歓声が東都のホテルの庭なかのせせらぎに立つ蛍狩りして/納谷香代子〉これは椿山荘の庭。西村和子選〈きのふとは違ふ高さの花木槿/斎藤山葉〉丈は伸びたし新しく咲いた。井上康明選〈白靴をわが意志として歩みけり/菅山勇二〉人間の意志は外部の社会的関係によって規定される!(マルクス)片山由美子選〈夏の月真鍮いろに昇りけり/岩野伸子〉むかしの蛇口の色、むかしを思い返す夏月かも。〈蜩や昭和の匂ひ残る町/月城龍二〉三丁目の夕日。小川軽舟選〈七月の水草を縫ふ流れかな/生江八重子〉涼しげである。三島市の源兵衛川に行きたい。〈軍港の門扉の固し月見草/前川卓〉横須賀港だろう。巨大な門扉と小さな月見草の対比がよい。