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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

谷川電話『深呼吸広場』書肆侃侃房

みんな谷川電話の恋人になりたがる。〈幻に負けない暮らし 心から白湯を冷めても白湯と呼びたい/谷川電話〉幻に名をつけ愛でるフェティシズムは、しかし人を、人の暮らしを支えてきた。〈水槽を光と影を飼育するために窓辺に置いてそれから/谷川電話〉何も入っていない水槽って、いいかも。〈恋人のではないおしっこの音はどこか物足りないと感じる/谷川電話〉生活音として、ほかのおしっこの音では物足りない。それほどの恋。〈雨粒が窓に衝突するたびに開花するのにまだ気づかない?/谷川電話〉ほんの一瞬だけだけど開花して散花する。〈全員の元恋人が復縁をしたがるだろうこの日食で/谷川電話〉日食のもつ不思議な力はあやうい感情へ人をひきよせるのか。〈がんばればきみの唾液に類似した唾液を分泌できそうなサマー/谷川電話〉酷似じゃなくて類似。味が似ていればいい。〈きみが雪だるまを壊す柔らかい手つきに宿る倫理の歴史/谷川電話〉アリストテレスからはじめて雪だるまの破壊まで。精神と肉体は並行して走る。〈夕焼けから隔たれている地下街でこわごわと言いあうあいうえお/谷川電話〉あいうえおは愛のささやきのよう、地下シェルターみたいな地下街で、言う。〈銭湯へそして花屋へ 自転車は天使をこわがらせない速さで/谷川電話〉自転車の速さの形容が秀逸。日常にすべりこんだ異世界なんだ、これは。〈アーモンドミルクラテには蜂蜜という祝福をまぜて、ほら、朝/谷川電話〉朝をいつもの飲み物ではじめる。ちょっとした祝福を足して。日常と祝福との比較が光る。

本心は教えあわずに突堤でクジラの自然爆発を聞く 谷川電話

深呼吸広場

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