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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

平出奔『了解』短歌研究社

風にたよりがち。〈月末の僕は公共料金を支払うことにためらいがない/平出奔〉自動機械のように当たり前とも疑問とも思わず払う。違う生き方もあったかもしれないけれど、とりあえず払う。〈本名で仕事をやってあることがたまに不思議になる夜勤明け/平出奔〉仮名でも充分通用するけれど、なぜか本名を使う僕らへのまなざし。〈誰だってパスタにレトルトカレーって思うとこまでいくんだろうな/平出奔〉極限までいく生活の例、保存の効く2つの食材の合いそうで合わない組み合わせ。〈比較的胃に優しいという薬飲んでそれでも長すぎる夜/平出奔〉胃が痛いとなかなか眠れない。日野百草丸がいい。〈風とかを言う言い方で今日眠くないですか? って言った月曜/平出奔〉眠気は午後には過ぎ去るものだから。〈東京にいてその1メートル先が東京じゃないことはありうる/平出奔〉概念としての東京はいつのまにかあらわれ、いつのまにか消える。〈別に誰も救えないかもしれないな 鳥の群れの数がわからない/平出奔〉鳥の群れは雑踏のようにおしよせる難問の数々、飛び去っていくことも。〈友達だけど会ったことない友達のブログにいつもあるいつもの病院/平出奔〉その人をアイデンティファイさせるものとして病院。〈あとはもう冷えるばかりの心臓は速さを変えながら鳴っていた/平出奔〉〈おそらくは持ってるという前提でお持ちですかと尋ねられてる/平出奔〉疑問形は持てという含意でもある。〈コンビニのジャスミン茶飲んでるくせに社会が苦手とか言っちゃって/平出奔〉麦茶なら気にならなかった。

民家からカレーのにおいがただよってそれを食べることは難しい/平出奔