恵まれた世代の詩という感じ。〈雁垂れの厨と厠を書き込めば図面に水音仄かにひびく/春日いづみ〉設計図面に生活がありありと再現された、水道管はまだ書き込まれていないけれど。〈国家なきクルドの民に長閑にも「お国はどちら」と聞きてしまへり/春日いづみ〉エスペラントの造語法ではkurdioなんて言えてしまうけれど。〈ヘブライ語の時制を語る君のこゑ雪の京都ゆ湿りを帯びて/春日いづみ〉哲学あるいは神学と冬の京都の共鳴は好き。〈わが胸に球根植ゑし心地なり一体一体めぐりしのちは/春日いづみ〉球根がいいね、彫像展を観た比喩として。〈浮きあがる突起を友は星と呼び展示は神秘とかの日語りぬ/春日いづみ〉点字読みは星読みとなる。〈指に読む文字にいかなる響きありや点字聖書を購ひに行く/春日いづみ〉手話や点字の神秘さと宗教とがよく合う味わい。〈残りわづかな消毒液を噴霧してドアノブ拭けば銀のかがやき/春日いづみ〉銀のかがやきはそこにいた細菌が死滅したその遺骸のかがやきだ。〈アドレスにpacem友は灯しをり送信の度ひろがるpacem/春日いづみ〉「※ラテン語 平和」としか書いていないけれどpacemは平和paxの単数対格、ミサなどで言うdona nobis pacem.などに由来するのだろう。〈アラビア語の光はヌールやはらかき若草のやうな文字をなぞれり/春日いづみ〉نور、この単語はイスラーム神学などでよく使われる。