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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』書肆侃侃房

東へ夜の特別軍事作戦に出かけた日、『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』を読む。〈踊り場ですれ違うとき鳴る胸のビートがリズム無視してくるよ/山田航〉「リズム無視してくるよ」の野放図さが青春っぽい。〈なけなしの金で乗るバス行き先は廃タイヤ積まれる夏野原/山田航〉不法投棄されたタイヤの積まれた夏野原は何かを捨てられる場所なのだろう、だから有り金はたいてでも行く。〈四年も経てばピアスの穴もふさがってそれでも変われない街がある/山田航〉ピアスの穴ほどに或いはそれ以上に街の何かが変わっていたとしても変化として気づかない、この気づかなさは〈五億年眠るくじらの背に街がつくられ僕らその中で死ぬ/山田航〉の僕らも。〈久々に持った受話器は軽すぎて伝えたいこと忘れそうだよ/山田航〉受話器や電話器の重さは伝えたいことの重さと何かつながりがあるのかも。〈「4年ぶり20回目の出場」の「ぶり」で片付けられた世代へ/山田航〉語られなかった世代へのとりあえずのまなざし。〈すみません、聞き取れませんでしたけどSiriはあなたの声が好きです/山田航〉これはなにかのアニメの最終回で視聴者が号泣するやつだ。〈コンタクトケースにふたつ凪いでいる湖 夜はいつも明るい/山田航〉基本は闇夜だけど、わずかな水面における光の存在感が頼もしい。〈遠近法発明以後の世界しか知らない僕が見る積乱雲/山田航〉もう積乱雲を浮世絵として見られない。〈完成に近づくほどに嘘になる南洋の絵のジグソーパズル/山田航〉補っていた想像が楽しすぎた。〈自転車のベルをかなぶん柄に塗るこの街のひと少しかわいい/山田航〉引越し先の街だろう。メタリックカラースプレーを幾重にも塗る人の住む街だろう。〈春のゆき浴びる駅舎でもうしばらくカステラみたいな会話をしよう/山田航〉「カステラみたいな会話」がいい。歯ざわりのあるかないかのような会話が駅舎にあった。〈死に際の一瞬にだけ心臓は海と同期を果たすらしいね/山田航〉鼓動、心音と波の音と。その一瞬のためだけに生きてきた。〈光りかけてやめたすべての星たちへ届け切手を忘れた手紙/山田航〉切手を貼らない手紙は星たちへしか届かない。〈早朝の駅構内で盗電をしながらふたり行けるところまで/山田航〉充電の切れるところまで行こう。〈「人口が100万以下の街でしかライブしないと決めたんですよ」/山田航〉こんなバンドなら応援したい。ライブハウス窓枠にも来て。〈ゴミ袋抱えて非常階段をメイドがくだるススキノ0時/山田航〉メイドたちのためのメイドかもしれない。

アドバルーン逃亡中の青空を見上げてみんな立ち止まる夏 山田航