以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

渡辺松男『雨る』書肆侃侃房

〈病棟に孤独の落ちてゐた朝はいちまいの楓のやうに拾ひぬ/渡辺松男〉孤独→楓の転換が鮮やか。〈生は死のへうめんであるあかゆさにけふ青年は遠泳したり/渡辺松男〉遠泳しているかのような息継ぎのような生として捉えた。〈こゑのうらこゑのおもてとひるがへりひるがへりつつもみぢは空へ/渡辺松男〉「空へ」の意外さ。表と裏の表現は〈まぶたのそとまぶたのうちにゆきはふりつまりわたしはもつゆきなのだ/渡辺松男〉も。〈ジョバンニの父のこと気になりながらねむるならくるしまずねむらめ/渡辺松男銀河鉄道の夜、冒頭のジョバンニの父のそれからは、私も気になる。〈一心にむすめのもてるシャーペンの芯のほそさの怖き立冬渡辺松男〉リットウの響きがシャープペンシルの芯の細さにも似て。