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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

toron*『イマジナシオン』書肆侃侃房

〈周波数くるったラジオ抱えれば合わせるまでの手のなかは海/toron*〉周波数が合ったかもまでの音がまるで海のなかのようだった。〈ドで始まるドで終わるように観覧車降りてもきみがまだ好きだった/toron*〉これは確実に一音階は変わってますね。〈種なしの葡萄を選ぶおだやかに滅びに向かう国の市場で/toron*〉そして少子化、生産人口と納税人口の減少、細りゆき滅びゆく国。〈幾星霜こいびとたちを匿ってスワンボートレースにひかる擦り傷/toron*〉「匿って」がボディガードめいていい。スワンボートの傷の数だけ守られてきた恋人たちがいる。〈おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ/toron*〉機械的な世界を、斜め上の視座から見て優しい世界へ作り変える。〈海にいた頃にはまるで知らなくて、涙の方があたたかいこと/toron*〉これは海棲動物から陸棲動物へ進化したあたりの話だな。〈海の日の一万年後は海の日と未来を信じ続けるiPhone/toron*〉国コードの変更が告げられるまでは信じ続けているだろう。〈表札を誰も掲げぬアパートのまだ何者にもなれるぼくたち/toron*〉配達員が苦労するアパートあるある。そのうえで表札がないことを何者でもないとする新たな視点が追加されました。〈二段階明度を上げたKndleであなたの帰る部屋を灯した/toron*〉キンドルはあまり明るくないので明るくない照明として使える。まだ寝たいけど迎えたいという意思表示。〈ねむらないひとを抱えてコンビニは散らばる街の痛点として/toron*〉コンビニの散らばりをとある縮尺のGoogleマップで見たのだろう。それが皮膚の痛点の広がりと似ていたのだろう。コンビニへの見方が痛点への見方へ変わる一首だ。〈くるぶしに桜の香水吹きつけるきみはマスクで来ると知りつつ/toron*〉嗅がれるためではなく装いとしての香水だ。〈はつ雪と同じ目線で落ちてゆくGoogleマップを拡大させれば/toron*〉途中までしか見られないのは、初雪は、空中で溶けて、消えて、しまうのだから。〈めくるめく夏の1ページめとしてサクレの上のレモンを剥がす/toron*〉あの苦さが夏。それとUber Eats短歌として一首。

ほんとうは見えない星座の線としてUber Eatsのバイクは駆ける toron*