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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

伊藤一彦『瞑鳥記』現代短歌社

〈採血車すぎてしまえば炎天下いよよ黄なる向日葵ばかり/伊藤一彦〉赤と黄と青の色彩、採血車という危機めいた暗示。〈おびただしき穴男らに掘られいて恥深きかなまひるわが街/伊藤一彦〉工事現場だろうけど違う肉穴も想像してしまう。〈漂泊のこころもつときあかるくて余白のごとき一本の河/伊藤一彦〉目的のない旅、見知らぬ街の見知らぬ河川敷を歩きたくなる。雑念を流すように。〈古電球あまた捨てきぬ裏の崖ゆきどころなき霊も来ていし/伊藤一彦〉光を集める器具として電球に霊も集まる。〈鳥失せしあとのゆうぞら鳥の霊のこりているや烟るがにあり/伊藤一彦〉インディアンの長旅のような感じ。速く移動する鳥、その霊はその場に残る。〈夜の海を全速力に泳ぐときわれのこころを占むるアメリカ/伊藤一彦〉なぜアメリカか。遠い場所への憧れとして。〈体刑を子にくわえたる日の月夜ただよえるごとし草木もわれも/伊藤一彦〉子を叩くときの、まとわりつく罪悪感。

畢竟はかなしみとなる怒りかも雨降りしぶく冬桜道 伊藤一彦