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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

水野葵以『ショート・ショート・ヘアー』書肆侃侃房

始末書を書き終えた日、『ショート・ショート・ヘアー』を読む。〈堂々と慰めたあとゴミ箱の深部に埋める二重のティッシュ/水野葵以〉一重だと漏れてきてしまうから。〈七月は動く歩道のスピードで気づけば夏の真ん中にいる/水野葵以〉七月の速度に気づかせてくれた。〈体重計に二人で乗って内訳も家事当番もうやむやにして/水野葵以〉親しいから曖昧になるのか、曖昧にしているから親しいのか。〈お目当てのバンドを聞かれて略称で答えるときの鼻に温風/水野葵以〉ミスチルノーナ・リーヴスか。〈特選の余韻を舌で転がしていると 見たよ と背後から声/水野葵以〉新聞歌壇へ投稿していると特選歌を舌先で転がすことが増える、一首二首と増えていくとかなぜか安心する。しかしいつかそこから脱しなくてはならない。そんな背後からの声。〈真夜中のセーブポイントとしてあるセブンに一応全部立ち寄る/水野葵以〉都会のオアシス、コンビニをセーブポイントとみなすのは現代人の共同幻想かもしれない。〈自動詞と他動詞ゆれる食卓で花と一輪挿しの交接/水野葵以〉中動態的なことが身に起きるとき、手近な静物の細部が妙に気になる。〈姉の名を辞典で引けば 死後の世界。あの世。 と書かれていて愛おしい/水野葵以〉たぶん水野黄泉か水野他界。〈僕のこと自慢に思う人がいて夜道がすごくすごく明るい/水野葵以〉そんな小さな灯火が夜道を明るく照らすのだろう。

国よりも君が好きだよいつまでも君死にたまふことなかれ主義 水野葵以