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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

雪舟えま『緑と楯 ロングロングデイズ』短歌研究社

〈夜空から直接風が吹いてくる実家とは荒削りなところ/雪舟えま〉「直接」がいい。田舎の、平原にぽつんと建つ一軒家を思う。星空の下の灯とか。〈やすらぎは死後でじゅうぶんだといって君は私を妻と定めた/雪舟えま〉ファムファタール味がある。〈ヤクルトをひさぐ身に地は柔らかくこの先は海、そのあとは春/雪舟えま〉地のやわらかさはヤクルトレディの履くスニーカーの靴底のやわらかさかもしれない。〈下り坂は気づきやすくて目が眩むどれだけ愛されていたかとか/雪舟えま〉愛の下り坂でしか気づけないこともある。〈名を呼べずその顔を見て喋れずに鎖骨が鳥のようだったこと/雪舟えま〉視線が鎖骨におりていく。いや、そこしか見られなくなって鳥。〈この体が地図だったなら君がゆく町のあたりがほのかにかゆい/雪舟えま〉なんかそこが気になってしまうから。