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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇2020年11月1日

地理的な興味で、金沢市磐田市高山市湖西市伊賀市などの文字が中日歌壇に多く並ぶと嬉しい。島田修三選第一席〈面倒な話を持ち出すとき夫は一般論だと前置きをする/森田ちえ子〉私も、そう。君のことを言っているのではない。〈「ごめんね」を朝言えなかった唇が夜に計っているタイミング/森田ちえ子〉唇の震えが伝わる。〈亡き母の大学ノートに残されし「今日もひとり」が胸締めつける/堀江悦子〉続きを読みたい。そのさきには絶対ひとりじゃないときがあるはず。小島ゆかり選第二席〈歩道橋を影絵のような少女らが夕陽を浴びて今渡りきる/加藤武朗〉「影絵のような」は歩道橋の陸橋部分で「今渡りきる」は階段の袂、時間の経過が景により描かれている。〈戻り来てこころの揺れを問はれたり料金不足の葉書の歌に/葛谷誠二〉たぶん六十二円。〈十五よりゲーテに惹かれ読み漁る書斎は森の如くひそけし/福沢義男〉きっと黒い森*1のようなひそけさ。古い文庫本の感じも含まれる。

*1:Schwarzwald