以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

雪舟えま『たんぽるぽる』短歌研究社

そばぼうろの連食性に気づいた日、『たんぽるぽる』を読む。〈美容師の指からこの星にはない海の香気が舞い降りてくる/雪舟えま〉「この星にはない」が奇跡のような修辞として舞い降りる。〈恋びとのうそと故郷の羊肉が星の散らばる新居に届く/雪舟えま〉「恋びとのうそ」がどんな形をまとっていたのか、気になる。〈会社員の娘なのに家のことおもいだすとき一面の草/雪舟えま〉きっと幸せな家だった。〈出されずに持ち歩かれている手紙多そう 梅雨の都市をみおろす/雪舟えま〉統計的な類推。〈死だと思うアスタリスクがどの電話にもついていて触れない夜の/雪舟えま〉死亡年とかの横についているやつなんだアスタリスクは。〈郵便は届かないのがふつうだと思うよ誰もわるくないのよ/雪舟えま〉ありがとう、許してくれて。〈セックスをするたび水に沈む町があるんだ君はわからなくても/雪舟えま〉水没していくのは童話の町。〈公園は変わった人によく出会う前世も来世もキノコのような/雪舟えま〉現世だけがたまたまキノコではない人、でもそういう人も居られるのが公園のよいところ。〈ふたりだと職務質問されないね危険なつがいかもしれないのに/雪舟えま〉形式と本質のずれが夜に挟み込まれる。〈角膜のなかには雪が降るという画家になるしかないいもうとよ/雪舟えま〉ずっと雪がちらつくのが特技だから画家。〈蒟蒻を濁らせているなつかしい風をちぎって小鍋に落とす/雪舟えま〉濁りのかわりに味を失った蒟蒻。