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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

山崎方代『こんなもんじゃ』文藝春秋

「文芸磐田」第46号の詩部門で第二位と知らされた日、『こんなもんじゃ』を読む。〈机の上に風呂敷包みが置いてある風呂敷包みに過ぎなかったよ/山崎方代〉期待はしていた。〈親子心中の小さな記事をくりぬいて今日の日記を埋めておきたり/山崎方代〉小さな新聞記事をくりぬきたくなった。〈コップの中にるり色の虫が死んでおるさあおれも旅に出よう/山崎方代〉魂の旅へ。〈せきれいの白き糞より一条の湯気たちのぼるとき祈りなし/山崎方代〉微細を観る目。〈牛乳の中に飛込みし蠅の黒いのは明晰にして知らぬものなし/山崎方代〉ヴィヨン、と思ったらやはり〈汚れたるヴィヨンの詩集をふところに夜の浮浪の群に入りゆく/山崎方代〉があった。〈べに色のあきつが山から降りて来て甲府盆地をうめつくしたり/山崎方代〉景が壮大。〈飛行機のプロペラの音高ければ見えぬ眼をもて空仰ぐ父/山崎方代〉プロペラのP音が楽しい。〈ねむれない冬の畳にしみじみとおのれの影を動かしてみる/山崎方代〉黝い部屋で。〈とぼとぼと歩いてゆけば石垣の穴のすみれが歓喜をあげる/山崎方代〉すみれをして歓喜せしめるのは「とぼとぼ」のため。〈そこだけが黄昏れていて一本の指が歩いてゆくではないか/山崎方代〉ゾワッとする。〈遠い遠い空をうしろにブランコが一人の少女を待っておる/山崎方代〉心の中に棲んでいた少女かもしれない。

かくれんぼ鬼の仲間のいくたりはいくさに出でてそれきりである 山崎方代