中日歌壇と中日俳壇の年間賞が発表になった日、『渡辺のわたし』を読む。〈隣人のたばこのけむり 非常時にはここを破って避難するのだ/斉藤斎藤〉台風でも破れちゃう避難用扉。〈池尻のスターバックスのテラスにひとり・ひとりの小雨決行/斉藤斎藤〉池袋ではダメ、池尻じゃないと。〈目のやり場吉岡さんは肉でしてつねに部分がふるえています/斉藤斎藤〉吉岡里帆で。〈シルバーシートに腰掛けておる三人が神の視点で鈴木・鈴木・鈴木/斉藤斎藤〉デスノートの死神の視点で。〈うつむいて並。 とつぶやいた男は激しい素顔となった/斉藤斎藤〉決意の果てに後悔もあった。〈母方のじいちゃんよりもばあちゃんが二ヶ月ながく死んでいること/斉藤斎藤〉そちらを基準になさる心境がある。〈ゆうやけのなか川べりの道をゆき止まれと言われ止まる全体/斉藤斎藤〉夕焼けの赤に止まれの白が映える。それは部分なのに全体のような強迫さを持つ。
ぼくはただあなたになりたいだけなのにふたりならんで映画を見てる 斉藤斎藤