以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

中日歌壇2020年11月8日

昨夜は〈母は云う私の生まれた経緯を林檎の赤を磨きつづけて/近藤尚文〉や〈ぼくにはぼくきみにはきみの名があって汐風香るその町へゆく/近藤尚文〉や〈鉄橋の真下でねむる冬の犬ただ星くずに降られぬように/近藤尚文〉といった輝かしい歌群を読み、今までの考え方とやり方では自分の限界が来ることを知った。島田修三選第二席〈夫婦して座席につくや即スマホ開きて独り独りになりぬ/久米すゑ子〉「つくや即スマホ」が面白い。よく名前を拝見する。〈満月を崩さぬように露天風呂ゆるりゆるりと静かに入りぬ/川村佳子〉評にもあるように「満月を崩さぬように」に惹かれた。〈深夜目が覚める時刻を言い当てる癖あり今は二時十五分/三上正〉私もそんな癖ある。小島ゆかり選第二席〈音を消し雨音のみを聞きをればなつかしい場所に身を置くごとし/岡本いつ〉評にもあるように「なつかしい場所」が面白い。たぶん行ったことのない心象風景なのだろう。そして〈静寂の中にパラリと音がする秋の匂いに満ちて図書館/酒井拓夢〉。待ってました酒井拓夢氏。季節に合わせて湿性から乾性へ。秋の匂いは古い書物のインクの匂いだろうか、文化の匂い。〈庭先に大・小・大の雨傘があざやかに咲く台風一過/高津優里〉大と小だけで家族のありようを伝えるのは上手いな。あと傘を三つも置ける庭がある。〈泡立ち草すすきを制すと思ひしがすすき反撃五分に戻しぬ/石川休塵〉一首に時間の経過がある。