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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

奥田亡羊『男歌男』短歌研究社

淡い日、『男歌男』を読む。〈補助輪をはずせば赤き自転車の少女にわかに女めきたる/奥田亡羊〉補助輪を外すと均衡を保つため姿勢がよくなる。〈流木の流れぬときも流木と呼ばれ半ばを埋もれてあり/奥田亡羊〉流人めく扱いの流木。「流れぬときも流木と呼ばれ」は発見。〈てにをはのずれてる街を歩みおり五叉路に五軒鋭角の家/奥田亡羊〉遊歩者*1の視点として面白い。〈元旦の月と転がるガスタンクもろ手の砂を舟まで運ぶ/奥田亡羊〉元旦ということもあり異世界感、人類終焉後の世界感が強い。〈女護島に俺が渡ればいっせいに白き日傘のばばばと開く/奥田亡羊〉二代目世之介には「白き日傘」を持つような女がよく似合う。〈カストロの時代を五十年老いてピアノを持たぬピアニストあり/奥田亡羊〉その人の支柱を失ってもその人で居続ける人の強さ、チェスを指さないグランドマスターとか。〈飛田新地の一膳飯屋にキャンディーズうつむきて聞く「その気にさせないで」/奥田亡羊〉孤独の果てに。〈へそに土を盛りて菫を咲かせたりぼくはやさしい男でしたよ/奥田亡羊〉確かに。やさしい男であることも肝要だが、こんな男でもありたかった。

冷蔵庫に石を冷やしているような男であろうしゃべりつづけて 奥田亡羊

*1:flaneur