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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇2020年11月22日

野田秀樹の「赤鬼」を観終わった。島田修三選第一席〈この秋の一番の濃き鱗雲 雲の余白に靴下を干す/大場米子〉「雲の余白」は空ばかりではなく地上もそうだと思わせる。第二席と第三席が突然音楽で「曲名」シリーズ〈断捨離のゴミの中よりオルゴールの「くちなしの花」突然流る/豊島芙美子〉〈山門をくぐると同時に「エリーゼのために」流れて大杉聳ゆ/三上正〉。〈マスクから解放された唇がffで鳴らすフルート/山崎美帆〉今朝は音楽でいっぱい。〈知らぬ間に居なくなりまた現わるる職場に一人煙草吸う人/吉田恵子〉煙草は吸うより喫むだけど吸うから非喫煙者から喫煙者への視点が見える。小島ゆかり選第一席〈湖昏れて遠く淋しき鴨のこゑあなたの貌が思ひ出せない/石川休塵〉評に〈海くれて鴨のこゑほのかに白し/芭蕉〉が引かれている。第三席〈ていねいにいれた珈琲にがすぎて夕べの言いすぎかえりみる味/上農多慶美〉自らの思いと受け取る方の思いのずれを珈琲で体験できるとは。〈一瞬の沈黙ありて「さあやろう」の医師の言葉で手術始まる/尾形哲雄〉と〈「メンテナンス終わりました」の声のして妙に納得の歯科検診/徳井晃子〉はセットで読みたい。