以太以外

国は夜ずっと流れているプール 以太

初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』書肆侃侃房

小林一茶百九十四回忌全国俳句大会高校生大学生部門で〈雲影は山までつづく夏休/以太〉が佳作と連絡のあった日、『花は泡、そこにいたって会いたいよ』を読む。〈夜汽車 ふみきりのような温もりでだめって言って抱きしめている/初谷むい〉「夜汽車 ふ」で五音、夜汽車は走り去る衝動のよう。〈生活がうまくできない 吐きたてのガムなら汚くないと思った/初谷むい〉賞味期限と消費期限をはき違えている感じがする。〈花冷えのきみを抱くとききみの持つとてもきれいな精液の海/初谷むい〉繁殖しようとしている。〈自転車の座席がちょっと濡れていた ゆびで拭ってもう秋が来る/初谷むい〉濡れた指先のささいな冷たさが秋。〈東京は光の海、と聞きました 電車の音が波のようです/初谷むい〉海と波はゆらぎ。〈ラブホテル、窓がないからおひまさまに愛してるって言えなくて好き/初谷むい〉窓がなく、排水管の音や隣室の音が聴こえる。でもそんな愛の牢獄めいたところが好き。〈一瞬でわすれちゃったなでもそれはそれはすてきなハンドルネーム/初谷むい〉そんなハンドルネームを人は一生のうち一度だけ持てる。〈みんなきれい 水族館ではいきものが泳ぎやすいようひとみが濡れる/初谷むい〉そうやって涙をごまかしてきた「みんなきれい」という儚さ。