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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇の十代

秋の中日歌壇で酒井拓夢氏の名を覚えた。まず2020年9月6日の小島ゆかり選第二席にその名を見つけた。〈生温い夏の夜からちぎれ来た小さき闇の如き黒猫/酒井拓夢〉評の「驚くべき十代の作者」には驚かなかったけれど、黒猫の流体性を「ちぎれ来た小さき闇」で表現したのは巧みで魅了された。同日の島田修三選にも酒井氏は採られていた。2020年10月4日にも酒井氏は小島ゆかり選第三席となっている。その〈指先が水面に触れて目が覚める夢の余韻の水の冷たさ/酒井拓夢〉は流体である水の温度の面を強調して捉えている。しかもその水は夢のなかの水であり、現実の記憶だけの感触と冷たさである点がポイントだ。そして2020年10月25日小島ゆかり選第一席には〈この夜の出口と見紛う丸い月潮汐力に揺られ十代/酒井拓夢〉。大きな水である海のうねり、そして天体への古代的な発想が基底にある。