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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

山田航『さよならバグ・チルドレン』ふらんす堂

浜松百撰十二月号にエッセイが載ると通知があった日、『さよならバグ・チルドレン』を読む。〈調律師のゆたかなる髪ふるへをり白鍵が鳴りやみてもしばし/山田航〉コンサートではない点がポイントだろう。個人宅であればたぶん無人だろうし、コンサートホールであっても聴衆はほぼ無人であってほしい。〈花火の火を君と分け合ふ獣から人類になる儀式のやうに/山田航〉火と入墨は人類文明の特徴。〈青空に浮かぶ無数のビー玉のひとつひとつに地軸あるべし/山田航〉つまらない存在ひとつひとつに幸あれと祈るような。〈真つ白なことばが波に還つてもこの国道は続いてほしい/山田航〉僕たちの退路としての国道。〈水飲み場の蛇口をすべて上向きにしたまま空が濡れるのを待つ/山田航〉すこし素行の悪い学校の水飲み場、希望。〈鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る/山田航〉飛び降りをするにも入場料は要るし、世知辛い。〈鳥が云ふ誰にとつても祖国とはつねに冬が似合うふものだと/山田航〉祖国とは遠くにありて今を悲しむためにある。北国で暮らしたことのある人の業のようなもの。〈貴意に沿ひかねる結果となりますがわたしはこの世で生きてゆきます/山田航〉生きるとは常に誰かの意に反することなのかもしれない、しかし生きる。誰かに好かれるために生きるのではない。