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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

佐山哲郎『娑婆娑婆』西田書店

雹降りで指が濡れ悴む日、佐山哲郎『娑婆娑婆』西田書店を読む。〈魚の氷に上る坐薬の副作用/佐山哲郎〉氷に上がる魚と直腸に上がる坐薬の対比、副作用はヒリヒリとするような言語体験。〈母の日のいびつでなまぐさい鞄/佐山哲郎〉母と鞄と、何かを容れるものとして。〈四万六千日未亡人サロン/佐山哲郎〉浅草や鶯谷あたりにありそうな死と隣合わせのサロン、〈くちびるとくちびる物の音澄めり/佐山哲郎〉唇は触れ合って声となる。しかしそれは人体という物の音である。秋めいて。〈男郎花胸に一物背に荷物/佐山哲郎〉語呂が良く「背に荷物」が滑稽である。〈ぢつと見てゐる大小の雪女/佐山哲郎〉彼岸から、姉妹か母娘か。〈元旦や見渡す限り信号機/佐山哲郎〉元旦の東京で動いているのは信号機くらいかもしれない。〈恵方へと歩めば袋小路かな/佐山哲郎〉せっかくの恵方なのに起点が悪かった、無念。

逝く春を交尾の人と惜しみける 佐山哲郎