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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

吉川宏志『石蓮花』書肆侃侃房

入野協働センターでボードゲームをした日、妻の運転に揺られながら吉川宏志石蓮花』書肆侃侃房を読む。〈パスワード******と映りいてその花の名は我のみが知る/吉川宏志〉隠された花の名が頭から離れない。オミナエシか。〈吹き口をはずしてホルンの唾を抜く少女は秋の日射しのなかで/吉川宏志〉発表会か、練習か、無思想と静寂の時間、美しい時間。〈銀紙のように静けし夜の更けにアルバイトから戻りたる娘の/吉川宏志〉銀紙の皺はもう二度と戻らない、そんな夜の時間を過ごしてきた娘の帰宅。〈夏つばき地に落ちておりまだ何かに触れたきような黄の蕊が見ゆ/吉川宏志〉死ぬ定めにあってなお瑞々しい黄色の行方は。〈剥かれたる蜜柑の皮ににんげんの指のかたちは残りていたり/吉川宏志〉化石のように。〈どれもみな鳥の内部をくぐりたる桜の色の卵に触れつ/吉川宏志〉桜は花を想像させる、生命の色。

わが家にて性のシーンの撮られしを初めて知りぬ箪笥が黒い 吉川宏志