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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

斉田仁『異熟』西田書店

局内異動はあるかもと思った日、斉田仁『異熟』西田書店を読む。〈黄金週間終わるブラシで鰐洗い/斉田仁〉「黄金」と「鰐」で南洋王の風格。〈夏浅し老人ホームのおもちゃ箱/斉田仁〉呆け防止の器具だろう、しかし「老人」と「おもちゃ」字面は意外性に満ちている。〈万緑や寺格を誇る大薬缶/斉田仁〉どでんと檀家をもてなす鈍色、無機質なのに「万緑」が生命感を、それも滑稽な生命感を与えている。〈自ずから巻尺戻る薄暑かな/斉田仁〉なかなか測れない焦り。〈稲刈つてあらわとなりし毛野国/斉田仁〉群馬県栃木県の稲田の広さ。〈総入歯にて月光を浴びており/斉田仁〉総入歯という神に近い存在へ注ぐ月光、〈中也忌の透明傘の中の空/斉田仁〉「透明傘」がつくる小さな、寂しげな、それでいて豊かな世界は中原中也の詩に通じる。〈神無月とは年金の来ない月/斉田仁〉リアリズム。〈厚着して本懐すこし揺らぎたる/斉田仁〉厚着して楽になり失った心意気。〈上毛三山ひとつひとつに淑気かな/斉田仁〉群馬県人の誇り上毛三山。〈恵方から方向音痴の妻が来る/斉田仁〉恵方と方向音痴という方角上での真逆さの出会い。

わが死後もずっとラムネが冷えてます 斉田仁