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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

「汗馬楽鈔」『八田木枯全句集』ふらんす堂

「癖に負けた」を桑名で聞いた日、『八田木枯全句集』の「汗馬楽鈔」を読む。〈七輪に祭過ぎたる影ありぬ/八田木枯〉祭後、影もまだ華やいでいるけれど七輪という地味な器物に落とされた影は哀愁を誘う。誰の影というより空気の影。〈凍蝶に天あり天をとばざるも/八田木枯〉この天は空ではない。〈虎落笛そびゆるごとき零時過ぐ/八田木枯〉時刻をそびゆるとした。巨大な時計塔のイメージ。〈天にまだ蜥蜴を照らす光あるらし/八田木枯〉の光は〈洗ひ髪身におぼえなき光ばかり/八田木枯〉の光でもあるし〈枯野の光髪にはつもることもなし/八田木枯〉の光でもある。〈熱さめて虹のうぶ毛のよく見える/八田木枯〉虹のうぶ毛は夢見から醒めたことの証、現実の把手かもしれない。

胎児のみにきこえて霜の降りにけり 八田木枯