音のない部屋のためにラジオ受信機を買った日、鈴木牛後『にれかめる』角川書店を読む。〈手にのせてなほも深雪と呼びにけり/鈴木牛後〉てのひらで雪となっても深雪と呼ぶ、それは記憶とともに存在するものだから。〈牛の尾の無風に揺れて草青む/鈴木牛後〉「無風に」「揺れて」の屈折。〈みな殴るかたち炎暑の吊革に/鈴木牛後〉東京の電車、「殴る」が炎暑に合う発見。〈枕木の井桁に積まれ鳥渡る/鈴木牛後〉廃線に終わりの予感。〈齧り痕めいて背高泡立草/鈴木牛後〉意外性のある把握。
牛死せり片眼は蒲公英に触れて 鈴木牛後