以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

渡辺松男『雨る』書肆侃侃房

週刊金曜日の金曜俳句に〈短調の隣より漏る室の花/以太〉が載っていた日、『雨る』のⅠを読む。〈ゆふかげはわが身を透かし地にあれば枯蟷螂にすぎぬたましひ/渡辺松男〉枯蟷螂に自分を仮託する、その自分、ことわが身は夕影に透けているという。危うい自己像。〈きいんとなにもなきまひるなり 歯の痛みいづるに遠き雪渓ひかる/渡辺松男〉「きいん」「雪渓」と歯の痛みは共鳴しあい、私は奥歯が痛い。〈すれちがひたり くらつとしたる香水に鼻腔のなかのビル群くづる/渡辺松男〉「鼻腔のなかのビル群」にクラっと来る。矜持が築き上げたビル群だろう。〈大き蠅うち殺したりそのせつな翅生えてわれのなにかが飛びぬ/渡辺松男〉魂ではなくとある感情に翅が生えたのだ。〈あぢさゐのやうにふつくらしたきみのひざがしらなどさむい図書館/渡辺松男〉紫陽花に喩えられる膝頭という豪奢。