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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

鷲谷七菜子「花寂び」『現代俳句体系第十五巻』角川書店

〈寒林の奥にありたる西の空/鷲谷七菜子〉西は仏教的な西方浄土だろう、そこへ辿り着くには寒林をぬけるしかない。明暗の対照がある。〈流し雛に水どこまでもうす明り/鷲谷七菜子〉鮮烈な「うす明り」の表現。〈孕み鹿のうなづき寄るも重まぶた/鷲谷七菜子〉「重まぶた」はうち重なるようなまつ毛を連想させる。〈曲がるたび音あらためて夕焼川/鷲谷七菜子〉川の屈曲部で音も色も変わるのだろう。〈雛買うて日向を帰る山の町/鷲谷七菜子〉ずっと日向、しかし山の町なので谷間の影がある。明暗の対照がここでも。〈生きものの闇の来てゐる障子かな/鷲谷七菜子〉影ではなく闇だ。存在感そのものとしての生きものが障子一枚を隔ててすぐそこにいる。