以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』書肆侃侃房

巨大な箱に入っていた『ひかりの針がうたふ』を読む。〈しばらくを付ききてふいに逸れてゆくカモメをわれの未来と思ふ/黒瀬珂瀾〉今の自分という本質がもしあるならそれを逸れてゆく実存がカモメということか。〈海のいづこも世界の喉と思ふとき雲量8は7へと移る/黒瀬珂瀾〉海を世界の喉と喩え、雲量という体温のような具体に触れる。世界は我が身体のように変化する。〈西鉄は夜へと吾を運びゆく履歴書を書く男とともに/黒瀬珂瀾西鉄バスジャック事件を思う。履歴書を書いているのに彼は正気を保てるのだろうか。〈阿蘇の陽に首照らされて妻は立つ旅嚢を分かつひとのゐること/黒瀬珂瀾〉分かち持つ人のいる安心が自信に変わり、阿蘇の陽が妻を神々しく立たせる。

身のほぐれゆくくらがりに替へ玉、と声をあげたり大森静佳 黒瀬珂瀾