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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇中日俳壇2021年3月7日

中日新聞しずおかの一面に現磐田署長で、東日本大震災発生直後に静岡県警機動隊大隊長だった方の短歌が載っている。〈収容の何も語らぬ亡骸に 水筒の水そっと注ぐ/鈴木宏哉〉。歌壇は浜松市のふたりが第一席。島田修三選第二席〈E線をピチカートする指のごと子らは行きたり遅霜の朝/北村保〉音楽用語を駆使して幼い子たちの足の動きを捉えている。〈海棠の花芽薄赤く出揃へど紅をさす人、人未だ見ず/高井佾子〉文体に関わらず内容は同時代的だ。〈駅前の古き食堂品書きに「二級酒」とあり注文してみる/吉成益人〉その昔を知っている人なのかな。小島ゆかり第一席〈ビルの中にビルの建つごと真昼間のビルは硝子にビルを映せり/酒井拓夢〉まちなかの景だろう。竹のよつに生え、聳えるビルを思う。〈たんぽぽが歌えばこんな声だろう卒園の声園庭に咲く/猪尻栄子〉五感へひびく明るさが園庭に満ちる。ちなみに島田修三選第三席と小島ゆかり選第二席は土岐市の佐賀峰子さん、〈古里産コシヒカリにのせひと文字の饅和へ食めば春めく厨/佐賀峰子〉と〈来し方をどこかに見せて人は老ゆ強き気持ちで弱くなりつつ/佐賀峰子〉。長谷川久々子選第三席〈蒼空を穿ちてのびる凧の糸/金山勝彦〉凧の勢いが人智を超える「穿ちて」。〈春めくや野仏の口薄く開き/山田康治〉呆けたような薄開きが春らしい。