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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

第五回尾崎放哉賞受賞作品を読む

第五回尾崎放哉賞入賞作品が発表になった。私が十二月に提出した〈手話の降りつもり暖かな列車/以太〉は入賞した。受賞作品のうち気がかりな句について読む。大賞の〈蝉時雨浴びて秘密基地の入り口/大川 久美子〉は蝉時雨を浴びなければ現れない秘密基地への入り口がありそうだと思わせる。音の中の夏の光がまぶしい。そして、五六七と駆け上がる韻律を隠し持つ五三・六四のゆるやかな変則対句だ。春陽堂賞の〈選ばなかった道が交わる/伽瑤〉は「どちらを選んでもよかったのかい! 」とツッコミ待ちだろう。七三四と自由律ならではの独自の調子を持って「選ばなかった」のあとの余韻が心地いい。優秀賞の〈レモンどこまでころがる冬陽の片隅/重富佐代子〉は陽に照る檸檬の色が鮮やかすぎる景色だ。〈レシートを栞にして読み終えた/堀将大〉は五六五でやや定型気味なるも生活の中に読書が根を張っているだろう作者の生活への態度がわかる。入賞の〈星座になれぬ星も輝いて夜空できあがる/久光良一〉は「星座になれぬ星」への着目が同じ自由律俳人として誇らしい。〈徘徊と散歩の境目を歩く私/岡村裕司〉は新しい概念を詩で切り開こうという試みが愉快だ。〈曲線だけでできている笑っている女/重富蒼子〉は笑うことで体の直線が曲がったという読みは無粋、人は曲線だけで生まれたのだからそれを敢えて書くことに俳句描写の神髄がある。〈春が来たブランコかわってあげる/楽遊原〉「かわってあげる」と擬人化された春へ差し出されるブランコの座面がかわいい。〈白木蓮そのままに音のない家族/野田麻由可〉この家族は生きているのだろうか? 生きているなら自然に溶け込むようなたたずまいの家族なのだろう。白さがちらつく。〈あの涙知る髪が切られた/室伏満晴〉舞台の第二幕として、涙のほうへ髪ははらりと落ちていく。