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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

「海鳴り星」『今井杏太郎全句集』角川書店

詩的挑戦は難解でなく平明でもできるのだろうか、と思い『今井杏太郎全句集』角川書店のうち「海鳴り星」を読む。〈うすらひのうごいて西国へむかふ/今井杏太郎〉少し西へ動いた薄氷と西国へ向かう自分と。〈さざなみのあふみに春の祭あり/今井杏太郎〉ささやかな命の芽吹きとしての春祭。〈九つはさびしい数よ鳥雲に/今井杏太郎〉かたちが。〈北窓をひらく誰かに会ふやうに/今井杏太郎〉このまっすぐな直喩、〈ものの芽を見しより二重瞼かな/今井杏太郎〉不思議な説得力、〈空を吹く風あり春の雲ゆきぬ/今井杏太郎〉語順によって因果を外れた大きな景、というのは風の方が雲よりも速いから。〈ゆつくりと眺めてをれば青葉かな/今井杏太郎〉眺める速度で変わる景色、〈目をつむりても真青な日向水/今井杏太郎〉見ていないはずなのに見える心象風景、〈南より北のあかるい秋の空/今井杏太郎〉理屈を遠くなはれたところ、〈茸山とはしづかなるところなり/今井杏太郎〉生命の繁茂なのにしづか、〈ぼんやりと枕を抱いて十二月/今井杏太郎〉冷えはじめた疲労感、〈遠いところに星のある寒さかな/今井杏太郎〉すごいな。