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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇中日俳壇2021年1月10日

島田修三選第一席〈歪むとふ知恵を持たざる無垢のままメタセコイアの何千万年/前川泰信〉遺伝を知恵と表現したおもしろさ。古種への敬意がある。〈たどたどしき子の棒針に生き生きと余り毛糸の冬が始まる/山崎美帆〉「余り毛糸」と思ったけれどこれは「余り/毛糸」か。〈作る人いないと思ふエジプト展にミイラの作り方解説あれど/阿部智子〉そういえば展覧会のカタログを中日新聞から貰った。小島ゆかり選第一席〈からころと道に転がる落ち葉にも時の音がありきょうはフルート/丸山勝也〉昨日はピアノ、明日はシンバル。音に満ちた生活。〈植木鉢底にナメクジ棲みてをり人の心の隙間の湿り/後藤進〉人の注意の隙間でもある。栗田やすし選第二席〈店頭の石焼芋に呼ばれけり/山崎正憲〉甘い匂いを呼び声としたおもしろさ。〈立冬の雨に烟れり大伊吹/中道寛〉伊吹山だろう。厳かな佇まい。長谷川久々子選第一席〈灰色の雲に乗り来る冬将軍/藪内純治〉孫悟空や仙人めいている。でも灰色という色や飾り気のなさが冬将軍っぽい。第三席〈枯菊を焚く夕暮の音として/福井英敏〉音に着目しているけれどそれに浮き上がる光も匂いも当然ある。〈武者返し小春の空を支へけり/田上義則〉武者返しは扇の勾配をもつ石垣、軍事建築の優雅な一面を見た。