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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

吉岡生夫『草食獣第四篇』和泉書院

新年俳句大会で〈ひいらぎの花列島に雲ひとつ/以太〉が会長入選句となったと知った日、『草食獣第四篇』を読む。〈つきあがりし餅の熱さをもろばこに移すつかのま臓器おもひぬ/吉岡生夫〉外科手術で切り落とされた臓器。〈花火より帰れるひとかざわめきのやがて大きくなる窓の下/吉岡生夫〉華やぐ声が潮のように近づく。〈その中の闇もろともに流れゆく空缶たのし浮きて沈みて/吉岡生夫〉「その中の闇もろとも」は想像外だろう。〈サンドイッチ炊き込みご飯またスーツ衣食とにかく簡便がよし/吉岡生夫〉サンドイッチも炊き込みご飯もそれだけで炭水化物・蛋白質・各種ビタミンを摂取できる。スーツは一着で朝から晩まで過ごせる。そういう暮らしを愛でる。〈関ヶ原をつはものどもがゆくあとは人馬の糞のさはにありけむ/吉岡生夫〉三方原での家康の脱糞を思い出した。〈山陽自然歩道を歩く昼ならばスーツが不審がらるるのみぞ/吉岡生夫〉この人、山道でもスーツなのか。〈眠りへと落ちゆくわれを待ち構へ夜を悩ます深海魚ども/吉岡生夫〉夢のなかの住人なのか、深海魚どもは。夢のなかの配達中にどうしても殺してしまう老婆のような。〈森永のエンゼルマーク、まろやかな尻のむかうに性のあるべし/吉岡生夫〉無性かもしれないけれど。