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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

中日歌壇中日俳壇2021年3月28日

中日新聞一面にある平和の俳句より〈悲しむな顔を上げよと海の声/鈴木昭子〉。島田修三選第一席〈中学生の僕に出会ったような朝 黄色い花より春は始まる/坂神誠〉中学生のときの匂いを思い出す黄色い花かも。第三席〈濃みどりの音符に春を謳ひゐるごとき〈こごみ〉の季語になきこと/高井佾子〉文語を駆使する短歌が特長の作者、勉強になる。小島ゆかり選第一席〈電源の落ちた画面に本当は逃げ出したいと呟く瞳/鈴木りえ〉画面点灯時の建前に対して画面消灯時の本音を吐き、自分の顔と液晶画面で見つめ合う。もしかしたら就活面接かも。第三席〈雪国の木々を彩る雪を見て戻ればまこと津は風の国/田中亜紀子〉東海地方の冬は風が強い。〈書架に本戻しし時の音に似てやさしさはひそやかにあるもの/酒井拓夢〉ビジネス書ではない文学全集などに特有の音だろう。〈ほのぼのと四季を教えて呉れし日よ庭に積まれし古き花鉢/村松敏夫〉「ほのぼのと」が謎めいている。〈木瓜の咲く道の突き当たりが家だった今朝の訃報欄の同級生は/加納義光〉木瓜の花の赤がその同級生との思い出だったのだろう。もしかしたら女子なのかも。〈ゆらゆらと追へる三歳ひらひらと舞ひゐる黄蝶遊び遊ばれ/中村且之助〉評の「三歳はまだ、蝶に遊んでもらえる年齢」がいい。栗田やすし選〈恋雀園舎の庭にこぼれ落つ/中嶋克明〉雀の声と園児の声の唱和がある。〈啓蟄や堆肥の匂ふ牛舎跡/田上義則〉土の匂いと堆肥の匂いが燃えるよう。長谷川久々子選〈割算の余りのごとき春愁ひ/加藤雅子〉どこかへ寄せたくても割り切れない思いか。〈菜の花を追ひかけ岬折り返す/冬森すはん〉車かな、黄色い風が見える。