以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

山階基『風にあたる』短歌研究社

『風にあたる』を読む。〈ヘアムースなんて知らずにいた髪があなたの指で髪型になる/山階基〉髪が髪型になるとき、やさしい指がかかわる。〈真夜中の国道ぼくのすぐ先を行くパーカーのフードはたはた/山階基〉真夜中の原付を追いかける。〈二十歳でも煙草やらないぼくたちを締め出して喫煙所にぎやか/山階基〉喫煙所へ締め出しているのではなく、その逆転として自らを捉える。〈雨が降りだしたみたいに郵便は届きふたつの宛て名を分ける/山階基〉配達原簿に記載されたのだろう。もう次々に来る。〈待ちわびた姿だけれど目の前にあらわれるまで思い出せない/山階基〉おぼろげには覚えているけど像を結ばない待ちわび。〈ラーメンがきたとき指はしていないネクタイをゆるめようとしたね/山階基〉着目点がいい。そこにないネクタイを見ている。〈牛丼の残りわずかをかき込めば有線にいい曲がはじまる/山階基〉どんぶりに音が反響してよりよい曲になる。〈いまは冬か春かすこしもめてから包みをやぶる音だけになる/山階基〉贈り物を開く、季節をひとつずらすように。〈はぐれ雲ひとつ浮かべてがら空きの元日をゆく各駅停車/山階基〉行き先の見当たらなさが元日っぽい。〈濡れた身を夢のみぎわへ引き上げて暮れがたの眼を風はかわかす/山階基〉あらゆる身体のうち常に涙のわく眼を乾かす風というふしぎ。〈くちぶえの用意はいつもできているわたしが四季をこぼれたら来て/山階基〉巡りから外れたのなら社会に従わなくてもいい。