以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

玉葉和歌集の夏と旅

叙景に徹すれば詩は永遠になると思い、『玉葉和歌集』の夏歌を読む。〈を山田に見ゆる緑の一村やまだ取り分けぬ早苗なるらん/前右近大将家教〉起伏のある緑の喜び。〈五月雨は晴れんとやする山の端にかゝれる雲の薄くなり行/今上御製〉雲と光が山の端をめまぐるしく動く。〈篝火の影しうつればぬばたまの夜河の底は水も燃えけり/貫之〉「水も燃えけり」という心象写生。〈こゝのみと煙を分けて過ぎゆけばまだ末暗き賤が蚊遣火/入道前太政大臣〉賤の家の奥行きの深さを闇の深さとして描く。〈闇よりもすくなき夜半の蛍哉おのが光を月に消たれて/藤原為守女〉蛍光を消す月光という、闇のなかの光の氾濫。〈行きなやむ牛の歩みに立つ塵の風さへあつき夏のを車/前中納言定家〉牛の怠そうな息も聴こえてきそうな暑さ。〈風早み雲の一むら峰越えて山見えそむる夕立のあと/院御製〉気象変化のダイナミズム。〈とまるべき陰しなければはるばると濡れてを行かん夕立の雨/右兵衛督基氏〉「濡れてを行かん」の威勢の良さ。〈入日さす峰の梢に鳴く蝉の声を残して暮るゝ山もと/民部卿為世〉蝉が消えても「声を残して」とする秀逸。〈暮れかゝる遠ちの空の夕立に山の端見せて照らす稲妻/藤原定成朝臣〉は〈宵の間の群雲づたひ影見えて山の端めぐる秋の稲妻/院御製〉ほど動きはないかわりに濡れた光を強調している。〈この比(ころ)ぞ訪ふべかりける山里の水せきとむる松の下陰/後光明峰寺前摂政左大臣〉「水せきとむる」は光も音もあり、匂いもある。〈岩根つたふ水の響きは底にありて涼しさ高き松風の山/大江宗秀〉水の響く谷底と「涼しさ高き」という空と高低差のある景を描く。

旅歌も読む。〈泊まるべき宿をば月にあくがれて明日の道行く夜半の旅人/前大納言為兼〉月狂いと言うべき旅。〈浪の音を心にかけて明かす哉苫洩る月の影を友にて/西行法師〉漁村の月夜、孤独という楽しみ。〈あま乙女棚無し小舟漕ぎ出らし旅の宿りに楫の音聞ゆ/笠金村〉「棚無し小舟」は時代を超える。