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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

天沢退二郎『アマタイ句帳』思潮社

〈台風近し猫ら変身して空を飛ぶ/天沢退二郎〉強風に乗って逃げる。〈冬の本行間に註こだまして/天沢退二郎〉行間を読むどころの騒ぎではない。〈蓮池に誤植幻想振り捨てて/天沢退二郎〉蓮池は蒸し暑い。汗を拭うように誤植への執着を振り捨てる。〈美少女のほほづきギュギュと鳴せしか/天沢退二郎〉鳴き声みたいに。〈鞄つかむ夏着少女の指つよし/天沢退二郎〉肩まで出している夏着、指先だけで鞄を持つのだ。〈大寒や月も柿食ふ音がする/天沢退二郎〉触と蝕。どんな音をたてて月は食うのだろう。〈ミニトマト裏返せば宇宙に充満せり/天沢退二郎〉どうやって裏返す? 何があふれでる?〈エアコンの音やむ? 何だ冬の音か/天沢退二郎〉音が似ている、空気をふるわせる音として。〈棺桶に柑橘の香をたきこめて/天沢退二郎〉木偏の句。〈種子のない柿はそもそも柿ではない/天沢退二郎〉柿の本質論。〈青汁に舟の漕ぎ出す11月/天沢退二郎〉青汁の海へ漕ぎ出す。健康を目指して。