以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』短歌研究社

自由律俳句を楽しむ会第一回に〈ウーバーイーツで買えた春風/以太〉が載った日、『死ぬほど好きだから死なねーよ』を読む。〈父危篤の報受けし宵缶ビール一本分の速度違反を/石井僚一〉飲酒運転ではなく速度違反というズラシの面白さ。〈遺影にて初めて父と目があったような気がする ここで初めて/石井僚一〉それまでは視線が交差しただけ。〈助手席を永遠の生き場所とする法定速度遵守のあなたの/石井僚一〉母親だろうか。〈スーパーに並ぶ無数の缶詰の賞味期限の向こうが未来/石井僚一〉賞味期限が終わっても食べられる。〈秋に届くはずの手紙にボールペンのペン先を沈めてゆく 翳り/石井僚一〉「届くはずの手紙」にペン先を沈めて書くねじれ。〈もらうことに慣れてはいけない 夜空には架空のひかりとしての星々/石井僚一〉すでにもらっているものは架空でまやかしだったのかもしれないから。〈雨のなかに溶けゆく心音 静けさのペットボトルに挿したストロー/石井僚一〉ストローが吸い上げるのは溶けた心音かもしれない、水の連想から。