中日歌壇
中日春秋より小田急線刺傷事件について、〈漫画本閉ぢし青年しばしして取り出せしは経済書なり/大坪久米子〉。島田修三選第一席〈何かしら妙な矜持が剥れ落ちカップ焼きソバひとつ買い来る/梶村京子〉時には楽をしてもいい。第二席〈姑が大変だろうと言いながら息子の嫁を気遣う夫/森田ちえ子〉おいおいとツッコミたくなるのかも。〈なめらかに弧を描きつつ後ずさる車庫入れも人裏切る時も/前川泰信〉弧を描くとは少し入れにくい車庫なのかな。人を裏切る時も早く姿をくらますには弧を描いた方がいい。小島ゆかり選第一席〈青空の雲ひとひらに安堵する夏空深き底しれぬ青/野村まさこ〉夏空の青は不可解、生命を含んでいるようで、死滅しているかもしれぬ。〈一浪で大学生になった孫彼女もできたらしくてほっとす/赤沢進〉一浪したからといって人の道を外れたわけじゃない。〈コロナ禍と五輪渦巻く東京からテナーで響く曾孫の産声/北原一枝〉どのような世界を生きるのか。
朝日歌壇
高野公彦選〈亜熱帯と化した日本でトマト入りキーマカレーを作る週末/塩田直也〉トマトもカレーももとは海外の食だ。永田和宏選〈もしも吾が胡瓜に生まれ変わったら思う存分曲がってみたい/蜂巣厚子〉うふふと曲がる。馬場あき子選〈人通り減りて売り上げ激減すも「ビッグイシュー」の販売に立つ/成田強〉ホームレス歌人だろうか。佐佐木幸綱選〈いいひとだったとみながいう春馬さん地獄のような今生に居て/山崎陽子〉あれから私達は何か変われただろうか。