以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

江戸雪『椿夜』砂子屋書房

磐田市中央図書館で借りた『椿夜』を読む。〈思い出す旅人算のたびびとは足まっすぐな男の子たち/江戸雪〉確かに算数の文章題に女の子はあまり出てこない。〈水平な音のながれる冷蔵庫君はわたしを忘れつづける/江戸雪〉冷蔵庫の「水平な音」とは何なのか? 音なき音なのか? 冷蔵庫のなかは見えず、水があることさえ忘れることができる。そのように忘れられる。〈このわれを女と呼ぶな真夜中にくろぐろと胸つきだきている/江戸雪〉「くろぐろ」の冷えた物質感。〈身体はただいれものにされてゆく蛾がふれてゆく脹脛かな/江戸雪〉蛾は虫の我である。〈Jくんの郵便箱に鳥ねむりぬるぬるともりあがる暗天/江戸雪〉郵便受箱は何か黒いものの増幅器かもしれぬ。〈円卓にひた置く銀の水筒のわれらを細くうつしていたり/江戸雪〉そこだけが家族の幸せであるかのように。