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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

『鈴木裕之俳句集』昭和年間、海坂発行所

昭和年間の句を読む。〈栗園に花の渦まく農学部鈴木裕之〉○学部の句は好き。〈真菰刈りて月に火星の隣り合ふ/鈴木裕之〉真菰生ふ川から天の川、宇宙を連想する。〈明日登る峰尖りをり吊し柿/鈴木裕之〉筆柿だろう。〈島々に民話多しや枇杷熟るる/鈴木裕之〉民話とその民話からの派生とそれらの複合としての民話と。〈夕顔の蔓まつ青に震災忌/鈴木裕之〉まつ青は感情だろう。〈京丸の平家の山の男郎花/鈴木裕之〉京丸は北遠の地。平家の落ち武者伝説がある。〈囀りへ円形ポスト口を開く/鈴木裕之〉囀りとは対象的な、声なき口を開ける。〈酒倉に風行きづまる終戦日/鈴木裕之〉風は酒倉で絶える。

中日歌壇朝日歌壇2021年6月13日

中日歌壇

島田修三選第二席〈助詞一字迷いながらもポストまで投函止めて葉書と帰る/築山恵美子〉葉書を寝かせるの、大事。〈はじめての赤いウィンナー都会の味早大生と少し飲んだ日/梶村京子〉都会にまちとルビ。赤いウィンナーが好きな世代がいる、父もそう。小島ゆかり選第一席〈五月晴れ飛行機雲が真っ直ぐに空を射抜きて弓道行かむ/小倉一修〉弓道の意外さにハッとなる。第三席〈妹の法要なれど道中の桜満開大地は息吹く/塚本かね子〉良い法要でありましたように。最後にコロナ禍短歌二首〈誰も誰もマスクの中にいつぱいの言葉溜めつつコロナ禍を生く/山田郁子〉〈感染者のいまだ皆無の村と言う新茶を買いぬ美濃白川茶/鈴木一輝〉感染者皆無の村なんてまだあるんだ。

 

朝日歌壇

高野公彦選一首目〈蜘蛛の糸みたいに細き電話線ワクチン求め犍陀多になる/箱石敏子〉〈結局はワクチン獲得戦争に負けたということ早い話が/戸沢大二郎〉敗戦を認める勇気。永田和宏選〈吾が歌の載りし裏面はスポーツ欄妻が切り抜く大谷翔平/戸沢大二郎〉笑う。〈選者らの指紋気になる三千のゆりの花咲く投稿の山/沼沢修〉官製はがきは山百合、なるほど。〈コロナの世しか知らない子どもたちが歩き出し話すようになった/上田結香〉確かに。うちの二歳はアルコール除菌と額での体温測定は慣れたもの。佐佐木幸綱選〈閉店に勝手ながらと書く店主行間にあるそのやるせなさ/三神玲子〉でもそのやるせなさは書けない。ただ飲み込むだけ。〈実習生ラマダン終えて久々に弁当広げ昼餉共にす/羽鳥健一郎〉インドネシアやマレーシアからの実習生かな。

津川絵理子『夜の水平線』ふらんす堂

新静岡百町森へ行った日、『夜の水平線』を読む。〈受話器置く向かうもひとり鳥渡る/津川絵理子〉電話で気持ちは渡る。〈若狭より電気の届くふきのたう/津川絵理子〉原子力発電所とふきのとうの形状について。〈橋脚は水にあらがふ夏燕/津川絵理子〉夏燕も空気に抗うかたちであり、付句の要領だ。〈冬薔薇満場一致とはしづか/津川絵理子〉確かにそうである。異論がなければ静かだ。〈映写口の塵きらきらと梅雨に入る/津川絵理子〉強い光で塵が見える。連想が繋がらなそうだけど暗さが梅雨の感じなのだろう。〈ものの芽や年譜に死後のこと少し/津川絵理子〉死後に少しづつ知られてゆく人のことを思う。〈銭湯の屋根草黒し雲の峰/津川絵理子〉黒と白の対照、変わらないものと変わるものの対比。

晩涼や原田芳雄の煙草の火 津川絵理子

 

 

中日歌壇朝日歌壇2021年6月6日

中日歌壇

島田修三選第一席〈どこまでも中央分離帯に茅花揺れこの世もあの世もなきがごとしも/冬森すはん〉現代の構造物と茅花の対比は〈地の果のごとき空港茅花照る/横山白虹〉にも。空港は空と地上を分けてキリスト教的だが、中央分離帯は彼岸此岸への連想が効いており仏教的だ。小島ゆかり選にも〈言の葉は交はさぬなれど滑り台の幼は幼にしづしづと寄る/冬森すはん〉が入選、一緒に遊びたいから近寄る。でもなんて言って良いかわからない。第三席〈幼稚園の跡地に建ちし特養に赤いブランコ残してありぬ/江島伸子〉昔はそのブランコを漕いだことがある人が今は利用者となっているかもしれない。〈母の日に花を贈れば仏壇の母の母にと捧げたる母/板倉亜澄〉十もH音。小島ゆかり選第三席〈黄砂ふりさくらはセピアの色となり村は古びたアルバムと化す/平岡孟〉アルバムを閉じて村が終わるような。〈パレットの全ての色を使うごと園のパンジー艶やかに咲く/那須勝美〉色彩の豊かさ表現。〈新聞の歌壇くまなく愛読す人の心を旅する想い/高岡勉〉共感。

朝日歌壇

佐佐木幸綱選〈寡黙なる人で溢れるコロナ禍のハローワークと云ふ密に居る/池田雅一〉ハローワークに通い詰めたことがあるので寡黙になる理由は、分かる。〈目の前に聞いてたよりも青い海入部2年目初めましての現地時間/大野麗〉水泳部の遠泳だろうか。高野公彦選〈婉然とつばきは咲きぬゴミとしてビニール袋につめこまれなお/山内仁子〉落椿となってなお。永田和宏選〈屋久島のその大いなる屋久杉は人を好いてはいない気がする/十一〉作者名はつなしはじめとルビ、屋久杉にはトトロ的な包み込むような感じはない。馬場あき子選〈虐使する企業見分けるポイントを説いて生徒と求人票繰る/高田明洋〉求人票は謎謎、先達と検分することが大事。

金子兜太『詩經國風』角川書店

〈おびただしい蝗の羽だ寿ぐよ/金子兜太〉蝗は飢饉を招きかねない。でも寿ぐ、自然のありのままの動きとして受け入れる大きさ。〈雲も石もいない山なり現存す/金子兜太〉ただ山としてそこにある。〈月が出て美女群浴の白照す/金子兜太〉と〈渚辺に若きらの尻みな黄菊/金子兜太〉、人体という存在はただ美しいだけ。〈鰈は血真っ黒な日本海明けて/金子兜太〉黒さのなかに蠢く血、生命たち、また朝が来る。〈冬の神「司寒」に捧ぐ韮の青さ/金子兜太〉韮ではなく韮の青さを捧げるというのが肝だ。神へ捧げるのは色だけでいい。ものは人が腹を満たす。〈歩みゆくや稲妻片片と散りぬ/金子兜太〉稲妻を物体として捉える、片片と。

中日歌壇中日俳壇2021年5月30日

島田修三選第三席〈故郷で家一軒を売るチラシ田畑と山のおまけを付けて/神戸隆三〉〈黄変の七円ハガキに「新聞で短歌を見た」と恩師の太字/村田修〉七円葉書に切手を五十六円分貼りたしたのだろうか。〈華やかに気取りたい吾と実齢が鬩ぎ合ってる初夏のブティック/後藤幸子〉何歳までも。小島ゆかり選第三席〈これまでになくしたものあきらめたことすべてが光るプラネタリウム/山本織〉そんなプラネタリウム、行きたい観たい。〈家事はじめ気づくピーマン、トマト、キャベツ野菜の断面美しいこと/山田真人〉料理に慣れるとそのことを忘れてしまう。

朝日歌壇

馬場あき子選〈もう四月もう二年生キャンパスで一年生を部活に誘う/松田わこ〉「もう」のリフレイン。これは佐佐木幸綱選第三首と高野公彦選にも。〈それはもう見事に白き灰となり母一世紀を走り抜けたり/川野公子〉焼かれたのではなく走り抜けて摩擦で剥がれ砕けて灰となったような勢い。佐佐木幸綱選〈掌の上に止めた時間をふと浮かせ鋭く放つ石川佳純/前川泰信〉卓球の球を時間と呼ぶ。〈葡萄畑の先に墓標の群立ちて生死の境界一メートル足らず/西向聡〉墓標の群を死者の街と捉えた。〈手に余る田んぼの借り手見つかりぬ若き異国の大き手の男/毛涯明子〉手に余り大き手へ。これは永田和宏選にも。

工藤玲音『水中で口笛』左右社

新聞社から電話のあった日、今や渋民村の工藤玲音から日本のくどうれいんになった工藤玲音の『水中で口笛』を読む。〈死はずっと遠くわたしはマヨネーズが星形に出る国に生まれた/工藤玲音〉マヨネーズの星形に宿命論を見る。設定がわざとらしくなくていい。〈五キロ痩せ猫が一匹わたしから消えてしまった、猫、おてんばな/工藤玲音〉ダイエットして一匹の相棒を失った感じがある。〈たわむれに月の磁石をつけられて大きな梨を抱く冷蔵庫/工藤玲音〉ぼこぼこの月とぼこぼこの梨の色彩の相乗効果で果実の観念がよく冷える。〈ふと特技が「迷路を書く」で「迷路を解く」ではないことに気付いてしまう/工藤玲音〉問題解決型ではなく問題提起型である。

 

 

中日歌壇中日俳壇2021年5月23日

島田修三選第三席〈影は水町は水底トラックが鯨を気取り二速で過ぎる/西脇祥貴〉影も水も流れる。〈反抗期過ぎたる女孫が吾が部屋に日毎訪ひ来て話し込む日々/田中利容〉女孫にまごとルビ、両親以外に話せる大人が子には必要。小島ゆかり選第三席〈青空の飛行機雲の行く先に見知らぬ人の暮らしあるなり/中村ちよか〉そのさきに空港があり、街がある。〈(ヘェー、これが島田修三先生か…)受賞で知った何度も書いた名/岡田利容〉中日文化賞受賞の記事だろう。栗田やすし選〈山峡の段段畑新茶摘む/中嶋克明〉遠州あたりの佳景である。

朝日歌壇

馬場あき子選〈さくらいろ愛しきまでに透きとおる駿河の春の桜蝦漁/石津谷深〉愛しきにかなしきとルビ、生命の色のかなしさと愛おしさ。〈金魚田の青き水面に雲映り雲の中より金魚湧き出づ/池田士郎〉佐佐木幸綱選にも。大和郡山のあたりは金魚の養殖が盛んだという。白のなかの鮮やかな赤が目に浮かぶ。高野公彦選〈貝がらの潮騒を聞くように子は白きギプスに耳を当ており/山添聖子〉二人のありかたが美しい。

笹川諒『水の聖歌隊』書肆侃侃房

梅雨入りした日、『水の聖歌隊』を読む。〈ひるひなか 薄ぼんやりしたエッセイを積み木で遊ぶみたいに読んだ/笹川諒〉そんなエッセイを、たとえばトルコとかベトナムとかコロンビアとか知らない作家のエッセイをまひるに読みたい。〈呼びあってようやく会えた海と椅子みたいに向かいあってみたくて/笹川諒〉椅子に人はいらない。ただ椅子が砂浜に置かれ波と向き合う。そんな景色が愛おしい。〈ほとんどが借りものである感情を抱えていつものTSUTAYAが遠い/笹川諒〉確かに、図書館やツタヤで借りたものだけを鑑賞してできた理性により感情が決められているかもしれない。〈雲を見てこころも雲になる午後はミニシアターで映画が観たい/笹川諒〉ミニシアターでの映画鑑賞したあとの感覚は確かに雲なのかもしれない、雨上がりの午後二時の、青と黄の斑の。〈空想の街に一晩泊まるのにあとすこしだけ語彙が足りない/笹川諒〉現実の町に煉瓦が必要なように空想の街には構成のための語彙が必要だ。

 

 

中日歌壇中日俳壇2021年5月16日

第38回都留市ふれあい全国俳句大会の高校生大学生の部にて〈映写機はマスクへ映す海の蒼/以太〉が【山梨県教育委員会教育長賞】と【正木ゆう子先生准賞】をいただいたけれど授賞式は中止と連絡があった。島田修三選第二席〈溶けやすき淡雪に似る詩語ひとつ文字にするべく家路を急ぐ/久米すゑ子〉スマホとかは使わない、あのノートに書き留めなければ消えてしまうことば。小島ゆかり選〈戦乱の世ではなくとも日常を失うことあり 夏草茂る/佐藤晴美〉本歌は〈夏草や兵どもが夢の跡/芭蕉〉だろう。栗田やすし選〈亡き母の漬けたる梅酒独り飲む/石川和男〉何年物だろう。少しずつ飲むのだろう。長谷川久々子選〈躑躅咲く赤きポストと並び咲く/足田正英〉郵便差出箱の色を真似たかのような鮮やかさ。

朝日歌壇

高野公彦選〈「処理水」の入った瓶を持つ総理両手に真白き手袋をして/篠原俊則〉雄弁な手袋。永田和宏選〈授業中ねむるユメノを叱れない夜通し母の世話をしてゐた/松井惠〉ヤングケアラーか。〈流木に友と腰かけセブンスターくゆらせた日の遠い潮騒/西向聡〉セッタとか呼ばれて。佐佐木幸綱選〈学舎の楠の下哲学を語る新人久しく見えず/近藤克己〉プラタナスの木ではなく楠というのがいい。若さゆえの苦しみとは。〈部活終へ職員室に眠りたる若き同僚を起こさずにゐる/佐藤きみ子〉湖西市の職員室風景。教員のサービス残業だろう。

中日歌壇中日俳壇2021年5月9日

中日俳壇で長谷川久々子選第三席だった、〈児を園に預けて妻と半仙戯/以太〉。島田修三選第二席〈一面の青麦畑を波立たせ郵便バイクが直線を引く/山本公策〉晩春のころから初夏にかけて田舎の畦道を走ると気持ちいい。第三席〈自動ドア開きたる間に菜の花の香は乗りきたり豊橋に着く/河合正秀〉「豊橋」など穂の国の豊系の地名は春に合う。小島ゆかり選第二席〈花びらの形と色を問うごとく看護師は便の形状を聞く/塩谷美穂子〉お花摘みとはこのことか。〈退職し職業無職と記入して無色のように透明になる/山田真人〉無職でこそ出せる自分の色もあるよ。栗田やすし選〈桜蕊降るや鉄打つ音の中/見山さなえ〉桜と鉄の対照が鮮やか。長谷川久々子選〈花の闇ぬけて二人の旅かばん/宮島ともこ〉コロナ禍という闇をぬけて、と読んでしまう。〈旅立ちや車窓離れぬ青蛙/佐伯起巳枝〉そこまで旅したいのか青蛙。

朝日歌壇

高野公彦選〈消灯の病室窓より見下ろせばマシーンで走る人ら煌々/塩田直也〉消灯と煌々、病室とマシーンの対照があざといまでに切れてる。永田和宏選〈夫の勝ちしパソコン将棋のお相手は顔のわからぬ初級のだめ子/出口真理子〉これってきのあ将棋かな。馬場あき子選〈春になれば線路づたいに来るという羚羊に会う朝の衝撃/沼沢修〉鉄道は一時停止したのか、そういえばかつて釜石のあたりで私の乗っていた列車が鹿を轢いたことがあった。

犬養楓『前線』書肆侃侃房

インド変異株が日本にすでに感染しているかもしれないのに黄金週間で多くの人が移動している日、『前線』を読む。〈同僚の鼻を拭った綿棒がこの病院の命運決める/犬養楓〉病院に限らずコロナ禍では綿棒一本で生活が一変する。〈財源は誰かの痛みの分でありそれを癒やした対価でもある/犬養楓〉医療従事者は上の句を忘れてはならない。〈まだ家具の届かぬ部屋で正座して経を読むようにYouTube見る/犬養楓〉新居では家具がないとやることがなく、床に正座してしまう。〈デジタルの時刻表示をちらり見て死亡宣告本人へする/犬養楓〉感染症流行下では付添の家族はいない。〈芸術に救われた人と同じだけ命捧げた若者がいる/犬養楓〉もしかしたらコロナ禍の芸術興業により誰かが命を奪われたのかもしれない。〈「し」と打てば「新型」と出る電カルの予測を超えて「信じる」と打つ/犬養楓〉機械の予測を人間の意志はこえられる。

人間の沙汰の多くは無駄だろう ただ存在は無意味ではない 犬養楓

 

前線

前線

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中日歌壇中日俳壇2021年5月2日

島田修三選第三席〈歩くたびポニーテールが揺れてゐるロングブーツの佐保姫が行く/川面得英〉乗馬を連想させる語彙。〈八十路ゆく己が歯列の欠けるよう吉田の宿の煙草屋消ゆる/長屋孝美〉と〈八十路なほ埋めつくされた予定表兄貴はぶれずそのままを生く/平田秀〉二首の八十路。小島ゆかり選第一席〈家族葬で済ますとポストに報せありますます見えぬ死とはなりゆく/岡本孝子〉死を隠す社会になりつつある。〈春雨の工場団地へ若者ら自転車連ね吸い込まれゆく/玉田さかゑ〉評に「工場団地に暮らす若者たちだろうか」とあるが、工場団地には工場しかないものなので出勤か昼飯帰りの若者らだろう。「季節の潤いと生活感」は間違いない。長谷川久々子選〈合格子地球を蹴つて飛び上がる/佐藤賢児〉宇宙へ飛び出す感じがある。〈登校の児に並び立つ松の花/松矢しのゑ〉名前がいい。

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』短歌研究社

自由律俳句を楽しむ会第一回に〈ウーバーイーツで買えた春風/以太〉が載った日、『死ぬほど好きだから死なねーよ』を読む。〈父危篤の報受けし宵缶ビール一本分の速度違反を/石井僚一〉飲酒運転ではなく速度違反というズラシの面白さ。〈遺影にて初めて父と目があったような気がする ここで初めて/石井僚一〉それまでは視線が交差しただけ。〈助手席を永遠の生き場所とする法定速度遵守のあなたの/石井僚一〉母親だろうか。〈スーパーに並ぶ無数の缶詰の賞味期限の向こうが未来/石井僚一〉賞味期限が終わっても食べられる。〈秋に届くはずの手紙にボールペンのペン先を沈めてゆく 翳り/石井僚一〉「届くはずの手紙」にペン先を沈めて書くねじれ。〈もらうことに慣れてはいけない 夜空には架空のひかりとしての星々/石井僚一〉すでにもらっているものは架空でまやかしだったのかもしれないから。〈雨のなかに溶けゆく心音 静けさのペットボトルに挿したストロー/石井僚一〉ストローが吸い上げるのは溶けた心音かもしれない、水の連想から。

 

 

中日歌壇中日俳壇2021年4月25日

島田修三選第三席〈花を見てをれば腹など立たぬと言ふ友は何見てゐたのだろうか/鈴木昌宏〉馬に人参よろしく花を提げていれば腹も立たないのかも。〈催花雨となりし夜来の雨上がり若き農婦のパステルカラー/北村保〉田園の色彩が豊か。小島ゆかり選第一席〈生きるとはノートに文字を書いていても空を見ることだと思います/井戸結菜〉勉めつつも希望を忘れない。〈人間のこころは顔の全体でつかむものだとマスクに教わる/坂部哲之〉一面の言の葉に書いてあった。言葉だけでなく伝わるものがある。〈日曜あさ中日歌壇を読みながらこれは旨いと珈琲飲みます/加藤重男〉すこし苦味も走る。栗田やすし選〈自転車の春塵はらふ休み明け/細井かね子〉登校・通勤のために使う自転車の手入れを怠らない。長谷川久々子選〈山桜海恋ひながら山に散る/武井健〉山桜は海をどう知ったのか、想像力をかきたてる。〈さくらさくら銀河となりて川くだる/榎本雅紀〉桜の花弁は星となる。