以太以外

辷り台に脚を忘れた虫の闇 以太

犬養楓『前線』書肆侃侃房

インド変異株が日本にすでに感染しているかもしれないのに黄金週間で多くの人が移動している日、『前線』を読む。〈同僚の鼻を拭った綿棒がこの病院の命運決める/犬養楓〉病院に限らずコロナ禍では綿棒一本で生活が一変する。〈財源は誰かの痛みの分でありそれを癒やした対価でもある/犬養楓〉医療従事者は上の句を忘れてはならない。〈まだ家具の届かぬ部屋で正座して経を読むようにYouTube見る/犬養楓〉新居では家具がないとやることがなく、床に正座してしまう。〈デジタルの時刻表示をちらり見て死亡宣告本人へする/犬養楓〉感染症流行下では付添の家族はいない。〈芸術に救われた人と同じだけ命捧げた若者がいる/犬養楓〉もしかしたらコロナ禍の芸術興業により誰かが命を奪われたのかもしれない。〈「し」と打てば「新型」と出る電カルの予測を超えて「信じる」と打つ/犬養楓〉機械の予測を人間の意志はこえられる。

人間の沙汰の多くは無駄だろう ただ存在は無意味ではない 犬養楓

 

前線

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