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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

今橋愛『O脚の膝』北溟社

浜松市文芸賞受賞者で競うBUNBUNはままつエッセイの部で入選し「浜松百撰」十二月号に「がんばる坂の家」が掲載された日、『O脚の膝』を読む。〈日本語にうえていますと手紙来て/日本語いがいの空は広そう/今橋愛〉「うえています」に羨望を感じている「広そう」。〈たばこ、ひるね、おふろ、カステラ、闇、じっとしていられない、たばこ、たばこ/今橋愛〉欲求が強いとは不満がつよいこと。〈おめんとか/具体的には日焼け止め/へやをでることはなにかつけること/今橋愛〉社会派な側面ものぞかせる一首。〈Tシャツのすそのところをつかんでた/いつのまにかうまくいかない/今橋愛〉「いつのまにか」は年単位で経過している。〈つかいおえるまでこのへやにいるかしら/三十枚入りすみれこっとん/今橋愛〉引っ越しの予感を生理用品で数える。〈映画ならななめうしろからとるシーン/おとこ、カーテン、西日、おんな/今橋愛〉カメラワークは感情の位置。

 

「水菜買いにきた」
三時間高速をとばしてこのへやに
みずな
かいに。 今橋愛

中日歌壇2020年11月29日

通読していると梶村京子氏、棚橋義弘氏、豊島芙美子氏などをお見かけして常連の方なのでは、と思う。島田修三選第二席〈枝つきのみかんぶらさげ姉来たる遠州弁をころがし姦し/小桜一晴〉青島みかんかな。〈降り来て手に乗りそうな金星を目指して歩む朝冷えの道/塩谷美穂子〉わずかな光も手をあたためてくれる。〈にぎやかな宴のごとき十三夜レジ閉るころ薄雲へ消ゆ/棚橋義弘〉シャッターの外の月夜と店内の閑静さの対比。小島ゆかり選第一席〈今年また同じ顔して庭師来て鋏さばきの音鳴り止まず/羽場千代子〉変に営業スマイルとかしていなさそう。〈「さみしい」は「さむい」からなる言葉かもしれず真白き手を擦りたり/酒井拓夢〉基底に「さぶし」がある。両唇音も寒さには合う。〈お遊戯で輪になって踊るキリン組社会的距離長めにとって/風間勝治〉ソーシャルディスタンスもお遊戯のひとつ。

川野芽生『Lilith』書肆侃侃房

ある晴れた日、「Lilith」を読む。〈夜の庭に茉莉花、とほき海に泡 ひとはひとりで溺れゆくもの/川野芽生〉近くの白い茉莉花に遠い海音を聴くかのような思考がある。溺れるのは誰かの言葉ではなく自分のそんな思考ゆえに。〈しろへびを一度見しゆゑわたくしは白蛇の留守をまもる執政/川野芽生〉しろへびは生物、白蛇(はくじゃ)は神。見た驚きをずっと持ち続け増幅させること。〈ぬばたまのピアノを劈きひとの手はひかりの絡繰に降り立ちぬ/川野芽生〉言葉だけで成り立つ世界がある。〈凌霄花は少女に告げる街を捨て海へとむかふ日の到来を/川野芽生〉映画「リリイ・シュシュのすべて」の津田詩織の庭に咲いていたのも凌霄花だった。〈書架の間を通路と呼べりこの夏はいづこへ至るためのくるしさ/川野芽生〉苦しさは夏の暑さというより学問の先の見通しの少なさ。いくら通路をまっすぐに歩んでも。〈海といふ肌理あらきものを均さむと波生れて海を覆ふに足らぬ/川野芽生〉「覆ふに足らぬ」は大きなものへも緻密に捉えようとする姿勢を感じる。海の把握は〈陸といふくらき瘡蓋の上を渡り見に来ぬ海とふ傷を/川野芽生〉も。〈月は馬具 そを光らせて渡りゆく影の騎り手に帰路はあらざる/川野芽生〉月と乗り物の発想は船からだろう。海の民ではなく大陸の騎馬民族の貴族性を思う。〈ほんたうはひとりでたべて内庭をひとりで去つていつた エヴァは/川野芽生〉イブはオイディプス王のように自らを追放した。蛇にそそのかされたのではなく自らの意志で。〈誰か言へりひとは死ののち白鳥に喰はするための臓腑を持つと/川野芽生〉ずっとその臓腑を温めて生きて死にますように。

つきかげが月のからだを離るる夜にましろくひとを憎みおほせつ 川野芽生

 

Lilith

Lilith

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初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』書肆侃侃房

小林一茶百九十四回忌全国俳句大会高校生大学生部門で〈雲影は山までつづく夏休/以太〉が佳作と連絡のあった日、『花は泡、そこにいたって会いたいよ』を読む。〈夜汽車 ふみきりのような温もりでだめって言って抱きしめている/初谷むい〉「夜汽車 ふ」で五音、夜汽車は走り去る衝動のよう。〈生活がうまくできない 吐きたてのガムなら汚くないと思った/初谷むい〉賞味期限と消費期限をはき違えている感じがする。〈花冷えのきみを抱くとききみの持つとてもきれいな精液の海/初谷むい〉繁殖しようとしている。〈自転車の座席がちょっと濡れていた ゆびで拭ってもう秋が来る/初谷むい〉濡れた指先のささいな冷たさが秋。〈東京は光の海、と聞きました 電車の音が波のようです/初谷むい〉海と波はゆらぎ。〈ラブホテル、窓がないからおひまさまに愛してるって言えなくて好き/初谷むい〉窓がなく、排水管の音や隣室の音が聴こえる。でもそんな愛の牢獄めいたところが好き。〈一瞬でわすれちゃったなでもそれはそれはすてきなハンドルネーム/初谷むい〉そんなハンドルネームを人は一生のうち一度だけ持てる。〈みんなきれい 水族館ではいきものが泳ぎやすいようひとみが濡れる/初谷むい〉そうやって涙をごまかしてきた「みんなきれい」という儚さ。

 

 

中日歌壇2020年11月22日

野田秀樹の「赤鬼」を観終わった。島田修三選第一席〈この秋の一番の濃き鱗雲 雲の余白に靴下を干す/大場米子〉「雲の余白」は空ばかりではなく地上もそうだと思わせる。第二席と第三席が突然音楽で「曲名」シリーズ〈断捨離のゴミの中よりオルゴールの「くちなしの花」突然流る/豊島芙美子〉〈山門をくぐると同時に「エリーゼのために」流れて大杉聳ゆ/三上正〉。〈マスクから解放された唇がffで鳴らすフルート/山崎美帆〉今朝は音楽でいっぱい。〈知らぬ間に居なくなりまた現わるる職場に一人煙草吸う人/吉田恵子〉煙草は吸うより喫むだけど吸うから非喫煙者から喫煙者への視点が見える。小島ゆかり選第一席〈湖昏れて遠く淋しき鴨のこゑあなたの貌が思ひ出せない/石川休塵〉評に〈海くれて鴨のこゑほのかに白し/芭蕉〉が引かれている。第三席〈ていねいにいれた珈琲にがすぎて夕べの言いすぎかえりみる味/上農多慶美〉自らの思いと受け取る方の思いのずれを珈琲で体験できるとは。〈一瞬の沈黙ありて「さあやろう」の医師の言葉で手術始まる/尾形哲雄〉と〈「メンテナンス終わりました」の声のして妙に納得の歯科検診/徳井晃子〉はセットで読みたい。

中日歌壇2020年11月15日

杏林堂で産まれて三ヶ月もない乳児を前抱きにしたお母さんが丹念にカートを消毒していた。島田修三選第二席〈横町のちひさき空のおぼろ月ふふめば甘くほろほろくづる/西脇祥貴〉おぼろ大根を思う。〈カレーには外米が合うパサパサの母のカレーが食べたくなる秋/山田昌史〉一九九三年米不作によるタイ米を思ったけれど、もっと昔か。小島ゆかり選第一席〈何もなきのつぺらぼうな夏がゆき今も静かな真つ白な秋/上村篤彦〉真っ白は漂白の意味もあるのだろう。第二席〈遊歩道のどんぐり拾いの幼な子は代わりに小さな靴跡置いて/佐藤規子〉どんどん行ってしまう。〈アルバムに笑顔ばかりを閉じ込めた私は子らの何を育てた/祖父江寿枝〉時間の怖さも感じる。〈黒犬と散歩の途中すれちがい缶コーヒーはブラックにする/相川高宏〉え、そんなことで決めちゃうの? ということは世の中けっこうある。今週は字余りについて学んだ。

奥田亡羊『男歌男』短歌研究社

淡い日、『男歌男』を読む。〈補助輪をはずせば赤き自転車の少女にわかに女めきたる/奥田亡羊〉補助輪を外すと均衡を保つため姿勢がよくなる。〈流木の流れぬときも流木と呼ばれ半ばを埋もれてあり/奥田亡羊〉流人めく扱いの流木。「流れぬときも流木と呼ばれ」は発見。〈てにをはのずれてる街を歩みおり五叉路に五軒鋭角の家/奥田亡羊〉遊歩者*1の視点として面白い。〈元旦の月と転がるガスタンクもろ手の砂を舟まで運ぶ/奥田亡羊〉元旦ということもあり異世界感、人類終焉後の世界感が強い。〈女護島に俺が渡ればいっせいに白き日傘のばばばと開く/奥田亡羊〉二代目世之介には「白き日傘」を持つような女がよく似合う。〈カストロの時代を五十年老いてピアノを持たぬピアニストあり/奥田亡羊〉その人の支柱を失ってもその人で居続ける人の強さ、チェスを指さないグランドマスターとか。〈飛田新地の一膳飯屋にキャンディーズうつむきて聞く「その気にさせないで」/奥田亡羊〉孤独の果てに。〈へそに土を盛りて菫を咲かせたりぼくはやさしい男でしたよ/奥田亡羊〉確かに。やさしい男であることも肝要だが、こんな男でもありたかった。

冷蔵庫に石を冷やしているような男であろうしゃべりつづけて 奥田亡羊

*1:flaneur

石井英彦『炎』文學の森

謹呈された『炎』を読む。〈白い電車が梅雨の山へ入ってゆく/石井英彦〉ただならぬ電車に違いない。死者を乗せるような。〈化物の国をやさしく雲の虹/石井英彦〉「化物の国」と「やさしく」は人柄のあたたかさ。〈たましいとこころ和解す瓜曲る/石井英彦〉「瓜曲る」の屈折が愉快。〈ビジネスマン不穏な坂は夜芽吹く/石井英彦〉ビジネスマト芽吹くの取り合わせが大好き。夜の坂を振り返るスーツ姿の男を想像する。その顔も、生き方も。〈仰がねば空は語らず五月尽く/石井英彦〉意志さえあれば応えてくれる。〈埋めた海へビルか墓標か冬の靄/石井英彦〉変わりゆく世界への諦念のようなものを感じた。

中日歌壇2020年11月8日

昨夜は〈母は云う私の生まれた経緯を林檎の赤を磨きつづけて/近藤尚文〉や〈ぼくにはぼくきみにはきみの名があって汐風香るその町へゆく/近藤尚文〉や〈鉄橋の真下でねむる冬の犬ただ星くずに降られぬように/近藤尚文〉といった輝かしい歌群を読み、今までの考え方とやり方では自分の限界が来ることを知った。島田修三選第二席〈夫婦して座席につくや即スマホ開きて独り独りになりぬ/久米すゑ子〉「つくや即スマホ」が面白い。よく名前を拝見する。〈満月を崩さぬように露天風呂ゆるりゆるりと静かに入りぬ/川村佳子〉評にもあるように「満月を崩さぬように」に惹かれた。〈深夜目が覚める時刻を言い当てる癖あり今は二時十五分/三上正〉私もそんな癖ある。小島ゆかり選第二席〈音を消し雨音のみを聞きをればなつかしい場所に身を置くごとし/岡本いつ〉評にもあるように「なつかしい場所」が面白い。たぶん行ったことのない心象風景なのだろう。そして〈静寂の中にパラリと音がする秋の匂いに満ちて図書館/酒井拓夢〉。待ってました酒井拓夢氏。季節に合わせて湿性から乾性へ。秋の匂いは古い書物のインクの匂いだろうか、文化の匂い。〈庭先に大・小・大の雨傘があざやかに咲く台風一過/高津優里〉大と小だけで家族のありようを伝えるのは上手いな。あと傘を三つも置ける庭がある。〈泡立ち草すすきを制すと思ひしがすすき反撃五分に戻しぬ/石川休塵〉一首に時間の経過がある。

郵便配達用語集

印刷・配布可 20240328版
郵便局で働く郵便外務が使う業界用語や略語や隠語をまとめた。ただし、この用語集は東海地方に偏っている。「川を渡ればやり方が違う」の言葉通り、郵便局の文化は局ごとに異なる。川一本隔てただけで書留を昼休憩前に返すのか、午後のミーティング後に返すのかさえ違う。肝心なことはこの用語集に頼らず班長や先輩に尋ねた方が良い。

あ行

赤車(あかしゃ) 軽四輪車エブリイの別称。混合や夜勤のときにキャップをかぶり乗る。
アテショ 住所の番地に住んでいない人宛だったり転居届が切れていたり住所がまちがっていたりした郵便に「あて所に尋ねあたりません」シールを貼って還付すること。スタンプの局もある。自分のハンコと確認者のハンコを捺す。「転送切れてるからアテショで還しなよ」
(あな)区分口を数える単位。「あと3穴(みあな)残ってます」
あるところ配達(あるところはいたつ) チラシやタウンを普通郵便や入力物のある家の受箱だけ配達すること。実際の軒数とタウンの枚数に差があるために可能。そういった要領の良さが生き抜く上では大切だ。
一号便(いちごうびん) 午前に出局してから昼に帰局するまでに配達するもの。配達員により午後一時近くになることも。
一時紛失(いちじふんしつ) 書留などを誤配や落失などで一時的に保管できない状態にさせ、のちに発見されること。紛失よりはマシだけど怒られる。
(いぬ) 配達員の天敵。ときどき噛まれる配達員が出る。撃退法は鼻を蹴り上げる。
受箱(うけばこ) 客の家や会社にあるポストのこと。ときどきバケツやダンボールや壷の家がある。単にポストと呼ぶと差出箱と紛らわしいので。
ウマ 年賀順立のときにサオを置く器具。倒すと苦労する。「ウマの近くで走るな」
一集(いっしゅう) 第一集配営業部の略称。 
SKYT(えすけーわいてぃー) ショートタイム危険予知トレーニングの略称、交通事故防止のためにもろもろを記入して班ミィーティング時に呼称する書類。書類を作れば何かを指導した・やった気になる書類至上主義の典型。猫ちゃん飛び出しがち、アクセルオフしがち。
オオモノ 定形外の通称。局にもよるけどアラモノはあまり聞かない。
オニギリ バイクに載せている新しいタイプのリアボックス。オニギリの三角に似ているからこの呼称がある。古いタイプは単に平らなヤツと言われる。雨の日はオニギリの方が濡れないけれど、古い人には平らな方が好きな変態さんもいる。
 

か行

戒告(かいこく) 給料に響く重い処分。昇給が一号棒減る。賞与も減る。
外人(がいじん) 外国人あるいは外国人っぽい人、日系人もふくむ。居住確認がなかなか返ってこない、転居が多い、日本語が通じない、名前が長くて同一人物か判断しにくい、など苦労する。地図に「外人」と書いてあることもある。外人が多い都市では、外人だらけの外人アパートが1区に1棟はある。
開封誤配(かいふうごはい) 誤配した封筒や圧着ハガキが開封されて回収されること。スプレーで復元可能なこともある。それでも、受け取った人はちゃんと宛名が自分かを確かめてから開封してほしいな。
ガサ 定形外の通称。
嵩物(かさもの) 厚みのある定形外。付録付きの通信教材やカタログなどが典型。たいていマルツになる。 
カタログ 物販とも。探せば安くておいしいものがたくさんある時代に、割高でそこそこおいしいものを送りつける郵便局の商品のこと。ほとんどのカタログの顧客は自爆の郵便局員とその親族である。配達員はほとんど実入りがないのにカタログ販売営業を無理強いされるので「ボゴールパイン」や「アップルマンゴー」や「つぶらなカボス」等の単語を聴くと気分が悪くなる。たいていやってもいない嘘の営業報告で営業をやっているふりをする。班長や課長は自爆して厄介事を避ける。
カネトリ 客から金を取ること、代金引換とか切手販売とか料金不足とか。ゼニトリとも。おつりの入力を間違えて超勤になることもある。切手の発売日などカネトリが多い日は苦労する。
紙物(かみもの) ビニルで覆われていない紙製の封筒のこと。紙製の定形外を指すことが多く、雨の日は濡らさないよう計配する。
完全投函(かんぜんとうかん) 雨濡れ防止や盗難防止のため郵便やゆうパケットを受箱に完全に入れること。キャラクターものの口の狭い受箱を使って定形外の封筒も入らないお宅については、定形外のゆうメールであっても完全投函を理由に積極的にマルツを切っていけばそのうち再配の手間が嫌になって受箱を変えてくれるかも。
機械(きかい) 区分機のこと。定形郵便を配達順に並べてくれる。
(きゃく) 配達先の住民。手のかかる客は配達員が躾けていかないと地域社会や後輩たちの迷惑になる。
業務困難局(ぎょうむこんなんきょく) 仕事がきつい局。ブツが多いか人員不足かで休憩をとれなかったり超勤が2時間を超えたりする。地方の県庁所在地や政令指定都市が多い。
キョカク 居住確認の略称、居住確認することと居住確認のために投函するハガキ「居住確認のお願い」「居住確認のお伺い」「お住まいの確認」等を指す。局によってハガキの形式が違うけれど、いずれも手作り感が満載である。キョカクの戻り具合や同居の家族の書き具合で引っ越してきた客の民度を推し量ることができる。「キョカク戻って来ないんで還付しちゃいます」
くっつき くっつき誤配の略称。圧着ハガキなどが他のハガキにくっついて誤配すること。投函時に裏返せば見抜けるし、慣れれば指の感覚で分かるようになる。
区分機(くぶんき) 定形を並べてくれる優れものの機械。ときどき郵便をビリビリに破く。図体がデカく長いので地域区分局や大きな局にしかない。
区分口(くぶんこう) 区分棚の仕切られた空間。大区分する前は配達原簿と転送シールだけが入っている。ときどき事故を入れる区分口もある。アパート1棟だけの区分口もあれば70軒ある区分口もある。
区分棚(くぶんだな) 大区分するための棚で、区分台の上に置く。1つの区分棚に5行✕x列で仕切られた区分口があいている。建ち並ぶ区分棚で仕切られた郵便作業室で、郵便配達員は朝の立ち上がりの仕事をする。「区分棚を蹴るな」
組合(くみあい) 日本郵政グループ労働組合の略称、JP労組とも。日本最大の労働組合にして御用組合、新聞が月初に届く。局によっては年末年始に組合から食料応援があることも。万が一のときのために組合役員の知り合いを作っておいた方がいい。支部によって力は違い、強い支部だと気に入らない局長を処分できる。
くるくる台(くるくるだい) 年賀順立のときに把束した年賀を置く器具。ウマを使わない局で使い、サオだけを積み上げて車輪をつける。
クレーマー なんでも謝罪しちゃう郵便局の体質につけあがって申告を繰り返す客。誤配ならまだ許せるが、雨濡れや折曲げや投函方法や不着などの度重なる申告は客の思い上がり。郵便局だけは相手にしてくれるので、社会から相手にされない客が自己の欲求を満たすためにクレーマーになりやすい。対応するときは録音・録画したほうがよい。
訓戒(くんかい) 局長から叱られること、始末書を書くと職務発令で訓戒を受けることがある。気にするほどのことではないけれど訓戒三回で戒告と同等となる。
計配(けいはい) 計画配達の略称、ようは人員不足や欠区などを理由に郵便部から班におりてきた郵便をすべて配達に持ち出さないこと。2パスを翌日回しにすることも含む。「雨だから紙もの定形外は計配していいよ」
K方式(けーほうしき) 最速の道順組立方式だけれど道順組立はしない。通区しており転居を完全に覚えたらできる。この方式は2パスを道順組立せずそのまま取り出して手区分を差し込んだだけで把束して持ち出す。転居や誤区分は現地で判断し、残として持ち戻る。パタパタする時間もないときの方式で、これを教えてくれたイニシャルKさんはトバシと併用していた。
消印(けしいん・しょーいん) 日付印(にっぷいん)とも言う。消印のおされた郵便のこと。消印が押されていると計配しにくい。切手ばりとも言うけれど消印には証紙も含む。「消印はぬいといて」
欠区(けっく) 突発や人員不足で配達できない配達区ができること。単に欠(けつ)とも。減区と呼ぶ局もあるらしい。他の班員が苦労する。「今日2欠(にけつ)。もう帰ろうかな」
原簿(げんぼ) 配達原簿の略称。
高校生(こうこうせい) 年賀順立に来てくれる高校生バイト。
誤還付(ごかんぷ) 住所に宛名の人が配達原簿に載っているのに還付すること。
誤区分(ごくぶん) 違う町の郵便が2パスに入っていること。
ゴゴイチ 12〜14時の時間指定。局にもよるが日勤者は12時30分には帰局しているので実質30分しかない時間指定。
コッパイ 小包配達を委託している業者さんのこと。「コッパイの衆に頼め」
午前様(ごぜんさま) 午後にも在宅しているのに午前中指定をしてくる客。田舎に多く、重なると苦労する。月曜日午前中に指定してくる客はたぶん社会経験に乏しい。
誤転送(ごてんそう) 転送シールを間違えて貼って転送すること。転送された局で誤配しちゃうダブルミスが起こりかねない。
誤配(ごはい) 正当受取人ではない住所へ配達すること、配達員の宿痾。転送漏れ・還付漏れ・くっつき・思い込み・同姓・似た番地などさまざまな誤配のバリエーションがある。ちゃんと原簿を見て順立して、配達するときに番地→宛名の順に確認すれば減る。だが「したこと」である誤配は結果に過ぎず原因は確認を「しなかったこと」にある。つまり誤配は配達員の無意識や注意しきれなかったことを原因に起こる。そのため誤配を根絶するには、誤配を配達員個人の問題ではなく組織や職場環境の問題だと管理者が認識する必要がある。
コロコロ コロ助とも。ファイバーを動かすときに下につける車輪。不足しがち。
混合(こんごう) 小包や大きな荷物を軽四輪で運ぶ人。バイクに積めない定形外を持っていってくれたり持っていってくれなかったりする。局によっては速達や書留を持っていってくれるらしい、いいなぁ。
コンサルティグ 旧モニタリング、専門役による監査のこと。前日の準備・対策や当日の接待点検や接待SKYTや接待多段階一時停止で現場は時間を奪われる。

さ行

サイハイ 再配達の略称。午前中指定は苦労する。
サオ 年賀順立のときにウマに並べる器具。把束した年賀を並べて置く。「サオを作業台に持っていっていいよ」
ザツ 定形外の通称。「ザツ、計配して」
産業医(さんぎょうい) あきらかな鬱病でも「がんばれるよね」とがんばらせる御用医師。診断書が欲しければ町のクリニックへ。
サンドイッチ くっつきを防ぐために同じ宛所の封筒の間に同じ宛所のハガキをはさむこと。標準はハガキを宛所の先頭に、封筒を後ろに道順組立する。人によって好みは分かれる。
JSET(じぇいせっと) 情報収集営業トレーニングの略称。SKYTの営業版。特約営業などの練習を画像を使って行う。
JPCC(じぇいぴーしーしー) 日本郵便お客様サービス相談センターの略称、あるいは相談センターなのに「相談」しない相談センターから丸投げされてきたお客様からの苦情。たいていはお客様の思い込みと勘違いと妄想でできている。赤い用紙のJPCCはもみ消せない。
時間外着手(じかんがいちゃくしゅ) 勤務時間外に郵便にさわること。組織的にやる局と絶対にやらせない局とがある。
時間休(じかんきゅう) 1時間単位で早退すること。x時45分に退勤する。多くは早く配達が終わり午後3時45分に退勤すること。
事故(じこ) アテショや誤区分の郵便のこと。誤転送も言う。
ジコ 事故を突っ込んでおく区分口。
事故事例(じこじれい) 事故事例研究会の略称。保険を使う交通事故が起きると一週間後くらいに事故者を質問攻めにしてよってたかって吊るしあげる会。制度化されたパワーハラスメントである。その会ではほぼ達成できない目標が策定される。
自爆(じばく) 自爆営業とも。配達員がおもにカタログ商品や年賀状等を自己負担で購入すること。管理者から声がけや営業をうるさく言われる前に自爆してしまえば無駄な負担を避けられる。管理者の言う「売ってこい」は「自爆しろ」の意。指標が目標(計画)に戻れば自爆は増える。そして、会社は実需を見誤り、商品開発力は低いままで、配達員に営業力はつかない。
始末書(しまつしょ) 誤配や紛失や交通事故を起こすと書く書類。基本的に手書きで、書式は局により違う。書く基準は局長や部長の気まぐれである。慣習化されたパワーハラスメントとも言える。
ジャニーズ 大手芸能事務所からの配達日指定郵便
順立(じゅんだて) 道順組立の略称。定形外を配達順に並べること。2パスを配達原簿を見ながら手区分を組み入れ、事故を省き、並べること。配達はなかなか速くならないので、順立を速くするのが早く帰局するためのコツ。
順立さん(じゅんだてさん) 道順組立をするパートの人。傷病でバイクに乗れなくなった地域基幹職がやることもありその場合は、なんちゃって外務とも呼ばれる。
ストレスチェック 年一回受けるテスト。要指導になると産業医に診てもらうため出張できる。
スプレー スプレー糊の略称。誤配した圧着ハガキが開封された状態で回収されたときにスプレー糊で貼ってごまかす。
0世帯(ぜろせたい) 元旦に配達する年賀ハガキのない世帯のこと。31日に記録しておく。
全域タウン(ぜんいきたうん) 配達区の全域にタウンが出ること。とても苦労する。
選挙(せんきょ) 選挙郵便の略称。来たその日のうちに配達しないとならない。転送シールは選挙スタンプや立候補者の顔や文言にかからないよう貼らなければならない。「今日は普通郵便やらずに選挙と入力と書留と消印のあるやつだけでいいよ」
千切り(せんぎり) 大区分するときどこの区分口へ入れるか分からず、区分棚の上の区分表示板を見ながら、ハガキや定形郵便の硬い側面を区分台へ何度も叩き付けること。包丁で千切りをするような音がする。「お、キャベツ千切りしてんの?」
前送(ぜんそう) 元旦に配達する年賀ハガキをファイバーに入れ、配達区の近くの郵便局などに軽四などで置いておくこと。
センター 旧集配センターの略称。山間部や海辺など田舎を配達する拠点。特殊室がないので書留を自分たちで交付しなければならない。
専門役(せんもんやく) 事故事例研究会やコンサルティングのときに来局する専門的すぎる方々。元局長などのお偉方だったりする。配達員は、接待点検や接待SKYTや接待多段階一時停止をするので時間を盗られる。
速達(そくたつ) 朝に出たら一号便、昼に出たら二号便のうちに手渡しで配達する郵便。不在なら投函できる。でも実際にその通りにしていると難しいこともあるので朝に出た速達が二号便で配達されることもある。ただ、特定記録の付いた速達は苦労する。
 

た行

大区分(だいくぶん) 定形外や2パスのかかっていない定形を区分口へ入れること。手区分とも。
台車(だいしゃ) 区分棚前の作業台からバイク駐車場まで順立・把束した郵便を運ぶ器具。これを使わずファイバーと車輪の足を組み合わせて運ぶ局もある。
対面誤配(たいめんごはい) 書留やゆうパックを対面したのに誤配すること。とても叱られる。というのは宛所と宛名の読み上げをしていないことが露呈するから。でも外人や老人やこども相手だと聴こえていないかつ読まれていないことがたまにある。
タウン 3日間で、ある地域へ全戸配布する宛名の書かれていないチラシ。タウンメール、配達地域指定「郵便」とも呼ばれる。全戸なので配達が面倒かつ宛名がないので放棄隠匿されやすい新人潰し制度。「俺が休んでいるあいだにタウンやっとけよ」
タウンプラス タウンの7日間版。これらはチラシを郵便だと会社が嘘をつき、配達員にもその嘘を信じ込ませようとしている。そのため放棄隠匿という配達した、という嘘を誘発する。
多段階一時停止(ただんかいいちじていし) 見通しの悪い交差点で何度もする一時停止。二段階一時停止とも言っていた時代がある。これを練習するために郵便体操のあとで多段階一時停止体操・出るぞ出るぞ体操・来るぞ来るぞ体操をする。この体操、最近は左右安全確認体操と呼ぶ。
端末(たんまつ) DOSSの別称。
ダンモノ 定形外の通称。
地域区分局(ちいきくぶんきょく) 県にひとつか複数ある大きな局。区分機がたくさんあるので2パスがそこから来たり計配する2パスをそこへ戻したりする。
中勤(ちゅうきん) 夜勤のこと。
中電(ちゅうでん) 中部電力の郵便、一ヶ月に一度町ごとにほぼ全戸に出る。苦労させられる。2022年4月からなくなった。
超勤(ちょうきん) 残業のこと。基本は90分まで。昼のミーティングで何分超勤するかを超勤申請する。違っても怒られないので多めに超勤申請しておくのが吉。労基法改正までは基本120分までだった。 
著配(ちょはい) 大企業や大学など郵便の多い箇所へ配達すること。通配ではなく赤車で行くことが多い。
追跡物(ついせきもの) 追跡。入力物の別称。
通区(つうく) 配達区を覚えるために地図を持って配達すること、通区訓練とも。区の一部だけ通区する部分通区もある。最初に先輩のあとについて行くときにそれぞれの家の受箱の位置だけはちゃんと見ておいた方がいい。それとだいたいの風景。「今日2人通区」
通配(つうはい) 普通配達か通常配達の略称。対義語は混合、もしくは著配。
2パス(つーぱす) 区分機にかけられ道順に並べられた定形郵便のこと。区分機を2回通す(パス)ことから。厚みがあり区分機にかけられない手区分は除く。
2パス戻し(つーぱすもどし) 2パスを区分機もしくは区分機のある局へ戻すこと、つまり2パスを計配すること。土曜休配になってからできなくなった。
都度処理(つどしょり) 転送や還付など事故があるたびにシールを貼ること。都度処理すると帰局後の事故処理の時間を短縮できる。
DOSS(でぃーおす) Delivery Operation Support Systemの略称。作業時刻を入力したりバーコードを読み込んだりマルツを出力したりする端末機器。支社は正確な入力を要求するけれどほとんどの人は大区分なんて数えないし、作業の都度に入力なんてしない。支社から目をつけられないためだけにあとから重点項目を修正しているのが現場のリアル。
DCAT (でぃーきゃっと) Delivery Communication Assist Toolの略称、GPSで配達員の位置を記録するスマホ端末、あるいはそれを使った配達員監視/管理システム。猫と呼ぶ局も。1分毎の位置を把握できるので客から届いていないなどと申告があった入力物や誤配した入力物をどこの地点で入力したのかだいたい把握できる。また、15分以上同じ地点にいると管理者へ通知が行く。他の班員の現在位置を知ることができる。
定時(ていじ) 午後4時45分から午後5時までに退勤すること。「書留40本か。今日定時?」
適応障害(てきおうしょうがい) 異動で局が変わったときとか職場環境が変わったときにかかりやすい鬱一歩手前の精神病。ケガ以外で配達員が病気休暇をとる理由として多い。
転送(てんそう) 転居届が出た家宛の郵便に転居シールを貼ること。機械がシールを貼る局もある。一部転居と全部転居がある。また、破産管財人へ送る転送はゆうメール以外を転送する。区の転居をすべて覚えれば順立が速くなる。
転送不要(てんそうふよう) 転送しちゃダメな郵便。ただ、見逃されがち、転送シール貼りがち。
特殊(とくしゅ) 特殊室の略称。書留をくれて、書留を返すところ。作業の遅い特殊の人だと返納時に行列ができる。
特送(とくそう) 特別送達の略称。裁判所から来る。認証司を見つけ認証してもらうのが面倒。
とっかかり とっつきの別称。
とっつき 区の道順で最初の家もしくは事業所。通区はここを知ることからはじまる。「うわっ、とっつきに書留ある」
突発(とっぱつ) 配達担当者が突然休むこと。予想していなかった欠区が発生するので他の班員が苦労する。「いつもの突発ね」
トバシ ブツが多いときに消印のない郵便だけの家や飛地や受箱が公道に面していない家への配達を飛ばす配達法。配達員やブツにより、消印のないハガキ一枚だけの家をとばすなど手法は様々ある。新人が一周するための裏技でもある。
飛地(とびち) 密集市街地から離れている配達先。住所の都合で別の配達区のなかにある配達先も言う。田舎に多い。たいていは他の配達区や他の班にお願いする。面倒な日は翌日に計配するけれど事業所だとそれができない。
トメ 書留の略称。簡易書留や特別送達や配達証明や本人限定も含む。特殊室からもらい返す郵便のこと。
 

な行

ニーマル 郵便・物流の郵便局職員のこと。あまり言わなくなった。
二号便(にごうびん) 午後の出局から帰局するまでに配達するもの。配達員により午後七時をまわることも。
二集(にしゅう) 第二集配営業部の略称。
二段階停止(にだんかいていし) 多段階停止の初期バージョン。
入力物(にゅうりょくもの) 入力とも。追跡サービスのついた荷物、レターパックゆうパケットゆうパック特定記録など。書留を含めることもある。「1区、午後の入力物とるよ」
人間関係(にんげんかんけい) 配達員が退職する理由のひとつ。たいていは班内の人間関係が理由だが、他班の班員や管理者との人間関係を理由に退職することもある。長く続けたいなら職場は最低限の生活資金を稼ぐ場と割り切って、別に趣味を作り仕事時間を趣味の発案や上達のための時間に充てるべきだろう。人間関係が悪くなる原因は相手の程度の低さにあるのだから、職場の人間関係なんか気にしない方が得策だ。
年賀(ねんが) 年賀ハガキを販売し、クリスマスあたりから通常配達をやりながら道順組立し、元旦に配達する郵便配達の一大イベント。新人は年賀を経て一人前になる。日本郵便は年賀ハガキを伝統文化としているけれど本当に伝統文化を重んじるなら略式である年賀ハガキよりも正式な対面による新年の挨拶を推奨すべきだろう。
年内配達(ねんないはいたつ) 年賀の一般信混入により旧年中に年賀を配達してしまうこと。大きなクレームになりがち。
 

は行

配達原簿(はいたつげんぼ) 原簿。道順組立のときに使う、住所と住人の名前が書かれている個人情報資料。間違って定形外と一緒に配達したり待ち出して紛失したりすると苦労する。
ハコモノ 箱に入った定形外やゆうパケットのこと。通信販売のハコモノが多くなった。新しい方法で注文するのに受箱が小さいままなのでマルツになる。
把束(はそく) 順立した定形外や定形を輪ゴムでくくること。または大晦日に年賀ハガキを手に持てる厚さだけ太い輪ゴムで縦にくくること。
パタパタ パタパタ方式とも、2パスの道順組立の方式のひとつ。研修で習う標準の道順組立は2パスを区分台から2〜3センチはみ出させてずらしながら重ね、そのはみ出しを指で持ち上げて手区分を差し込む方式。そしてパタパタ方式は左手を衝立のようにして、区分台に積んだ2パスを立てながら送る道順組立する方式。右手から左手へ送るときパタパタ鳴るのでこう呼ぶ。普通に道順組立するよりも速いらしいけれど、人による。
発達障害(はったつしょうがい) 郵便配達員に多い障害。精神障害は職業病のようなものだが、当然のように発達障害を抱える人も多い。誤配など入力ミスの多い人や班員とうまくやっていけない人は一度診察してもらうことをお勧めする。
ハンコ 入社したときに作るシャチハタ。アテショシールやSKYTや各種書類などなんにでもハンコを捺さなければ仕事がはじまらない。静岡県西部では転送シールにも捺すらしい。自分たちの仕事に何か意味があると信じるためにハンコはある。
ファイバー 定形外が入ってくる透明もしくは青いケース。コロコロをつけると機動性が上がる。そのまま郵便バイクのリアボックスに載せられるサイズになっている。
不着申告(ふちゃくしんこく) 郵便が届いていないという苦情。たいていもう他の同居家族が受取っているか、差出人が宛所を間違えて書いているかだったりする。
不着調査(ふちゃくちょうさ) 不着申告が出たときに該当の家の前後3軒以上や同一原簿内や同じ区の同姓の家などに誤配がないか訊いて調査すること。でもたいてい最初に該当の家を訪れれば済んでしまうこともある。
ブツ 郵便物の数のこと。ミーティングで言われるのでそれを基に何時に退勤できるか予測する。少ないときは1、2万。多いときは局によって10万を超えることも。
物調(ぶっちょう) 物数調査・物数等調査の略称。2パス・トメ・入力物などの数や3階以上・オートロックマンションの対面配達箇所数や出発・とっつき・帰局の時刻とメーターなどを所定の用紙に書き込む、なんのためにやるのか不明な業務。でたらめに書いても計画が困るだけで配達員が困るわけではないので、書かれる数はたいてい配達員のフィーリングである。
プライバシー 差出人が書かれていないゆうパケットの総称。
防衛運転(ぼうえいうんてん) 過失割合の低い交通事故が起きたときに配達員を責めるための口実。交差点で一時停止なしを直進した配達員が一時停止無視の車にはねられた時などに「防衛運転ができていなかった」と責められる。
放棄隠匿(ほうきいんとく) 郵便を捨てたりロッカーに隠したりする犯罪行為。タウンが多い。ガソリンを運んでいるのだからタウンなんて燃やして証拠隠滅すればいいのに律儀に持ち帰りロッカーに保管してロッカー点検で発覚する。DOSSに「残の処理」項目が新設されるまで放棄隠匿は無くならないだろう。
ポスモバ端末(ぽすもばたんまつ) ポスタルモバイル端末の略称。DOSSやDCATに代わるZEBRA社製の携帯端末。でも「代わる」だけで何も進化しない。進化しない人間のかわりに機器が進化すべきなのに、従来のDOSSと同じくお釣りを入力しないとならないし物数や書留のデータも自動送信されない。
補助(ほじょ) 通常配達を助けてくれること、または助けてくれる人。たいてい主任などのベテランがする。補助の方法は入力物をとってくれたり数穴を持っていってくれたりとさまざま。補助してくれた人が補助した人より早く帰局するとイヤミを言われることも。「補助あるよ」と言われて期待していたら順立補助だけのことも。

本人限定(ほんにんげんてい) 書留として特殊から受け取る本人限定受取郵便のこと、宛名の客本人から運転免許証やマイナンバーカードや保険証を見せてもらい、記号番号や生年月日を書き写す。マイナンバーカードはマイナンバーを書き写さず地方自治体の首長を書くなどルールが厳しい。

 

ま行

マキトリ コッパイの衆に頼まなかった薄物ゆうパックや小型のゆうパック
前空きトレイ(まえあきとれい) 順立前の2パスが入っているトレイ。使わない局もある。
前鞄(まえかばん) 配達する際にスーパーカブや自転車の前に設置する郵便鞄。把束した定形だけを入れる人、定形外を横にして底から詰める人、定形外を宛先が見やすいように縦に並べる人など使い方はさまざまである。落防止のために、晴れの日も常に雨覆いをかぶさせる局もある。
前超(まえちょう) 勤務時間前の超勤。
マルツ マルツーとも。不在連絡票と不在連絡票を出した郵便・荷物のこと。「この特定記録はマルツです」
(まど) 郵便局の窓口。
未入力(みにゅうりょく) 入力物や書留を、受入から5分以内で配達完了すること、もしくはそもそも受入せず配達完了もせずに配達すること。未入力をすると叱られる。前者は、追跡は受入削除して追跡番号をメモして6分後以降に配達完了し、書留は配達完了からではなく配達証を印刷すれば回避できる。郵便追跡サービスを見た客の苦情を減らすためだが、受入入力しないと受入されないシステムに欠陥があるのに未入力を出した配達員を責めるのは本末転倒だ。
メルカリ 差出人が書かれていないゆうパケット、フリルもあるけど総称してメルカリ。ときどきゆうパックもあるので注意。
万年主任(まんねんしゅにん) 班長や副班長にならず、ずっと主任のままの古株。
ミステリーショッパー 専門役や暇な課長が局近くの交差点に潜み、配達員が一時停止や多段階一時停止をしているかチェックする行為。彼らは暇なのだ。
無駄(むだ) 郵便の仕事で無駄と思われていること、何回もあるミーティング・郵便体操・出発時の点検・管理者・専門役など。しかし郵便の仕事そのものが社会から無駄と思われているかもしれないので、無駄を愛でる心意気も必要だ。「郵便の仕事には無駄が多い」
無能(むのう) 能力が低い、とも言う。配達が遅く補助を受けざるをえない社員。要支援になっていることが多い。しかし超勤で稼がないと生活が成り立たない社員にとって配達が速いことにメリットはない。
 

や行

夜勤(やきん) 夜間のゆうパック配達や再配達へ行くこと。局によっては軽四輪に乗る。夜勤といっても客ありきなので午夜を跨ぐことはない。
夜勤補助(やきんほじょ) お中元お歳暮の時期などに夜勤の補助をすること。通配が終わって急に頼まれることがある。
ヤリキリ 一号便の出発時に配達区すべての定形・定形外・入力物を持ち出して昼休憩に戻らず配達を終えること。年賀準備などで別の人に二号便を任せられるときにできる。
郵政カブ(ゆうせいかぶ) 古い50ccもしくは90ccのカブ。前鞄の重さがハンドルに直接来る。たいていキックでエンジンをかける。
有能(ゆうのう) 無能の逆で配達の速い人のこと。一見すると彼らが補助をすることで郵便配達を支えているようだ。しかし管理者が有能の業務量を区割りなどの基準にすることで、自らの首を締めているしかつ他の班員の首を締めている。有能は郵便配達という制度を瓦解させる要因のひとつである。
郵便体操(ゆうびんたいそう) 朝礼時、一斉に行う郵便配達員のための体操。11の動きと深呼吸からなる。カルト教団の礼拝などと同様の集団催眠の技法で、集団で同じ行動をさせることで心理的にコントロールされやすい身体へと改造されていく。冒頭の「今日も元気に郵便体操をいたしましょう」が配達員の心をえぐる。
ユニオン 郵政産業労働者ユニオンの略称。ストライキを打ったりする活動的な労働組合
指サック(ゆびさっく) 指送りをスムーズにするため両手の親指につけるゴム。すべての指につける人もいる。
要支援者(ようしえんしゃ) 誤配や配達しきれない郵便の持ち戻りがある配達員が月一回班長等と対話するパワーハラスメント制度。いつの間にか要支援になっていて、いつの間にか要支援を外されている。要支援者は月一回の対話の他は特に何もする必要がない。要支援とあるけれど、他の班員からの支援(補助)はないことが多い。

ら行

レタパ レターパックの略称。プラスは赤、ライトは青と呼ぶ。プラスは最近速達扱いになった。しかし受箱の大きさや在宅か否かでプラスよりライトの方が早く届くことがある。
(れつ) 区分口を列で数えることもある。「午後は2列やってくれればいいよ」
労担(ろうたん) 総務部のよくお世話になる課長。よく局長や部長からつぶされる。

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第三十八回短詩形文学献詠祭

伊勢国一宮椿大神社の別宮椿岸神社にて短歌と俳句の短詩形文学献詠祭が催され、参加した。

椿岸神社

東名と伊勢湾岸と新名阪を駆け抜け新設の鈴鹿インターチェンジをおりた。浜松市から四時間弱で茶畑に辿り着いた。鈴鹿山脈の麓は伊勢茶の産地で、新名阪の高架から海側は防霜ファンが乱立していた。高架の山側は町があり、椿大神社の周囲に建つ介護施設の名は椿、小学校も椿小学校と神社に依存する門前町であった。椿大神社の別宮椿岸神社の境内に設けられた受付で十二時に受付を済ませ、椿会館でとりめし折を食べた。十二時五十分に椿岸神社の神殿に参上した。宮司祝詞のあと献詠の披講を行った。短詩形同好会の年間賞天地人のあと一般の部、そして小中学生の部の順だった。そのあと巫女が椿の造花を手に御神楽を舞った。献詠のあとは玉串を捧げ小休止ののち表彰式。全体で十四時過ぎには終わった。入選者は愛知県と三重県の方が多く、遠いところでは南相馬市飛騨市豊橋市の方がいた。参道にある椿茶屋にて、椿草もちで一服、迷いながらも鈴鹿インターチェンジを見つけて静岡県へ向かった。お土産の封を解くと椿の材で作った夫婦箸だった。


椿宮短詩形文学献詠祭

中日歌壇の十代

秋の中日歌壇で酒井拓夢氏の名を覚えた。まず2020年9月6日の小島ゆかり選第二席にその名を見つけた。〈生温い夏の夜からちぎれ来た小さき闇の如き黒猫/酒井拓夢〉評の「驚くべき十代の作者」には驚かなかったけれど、黒猫の流体性を「ちぎれ来た小さき闇」で表現したのは巧みで魅了された。同日の島田修三選にも酒井氏は採られていた。2020年10月4日にも酒井氏は小島ゆかり選第三席となっている。その〈指先が水面に触れて目が覚める夢の余韻の水の冷たさ/酒井拓夢〉は流体である水の温度の面を強調して捉えている。しかもその水は夢のなかの水であり、現実の記憶だけの感触と冷たさである点がポイントだ。そして2020年10月25日小島ゆかり選第一席には〈この夜の出口と見紛う丸い月潮汐力に揺られ十代/酒井拓夢〉。大きな水である海のうねり、そして天体への古代的な発想が基底にある。

中日歌壇2020年11月1日

地理的な興味で、金沢市磐田市高山市湖西市伊賀市などの文字が中日歌壇に多く並ぶと嬉しい。島田修三選第一席〈面倒な話を持ち出すとき夫は一般論だと前置きをする/森田ちえ子〉私も、そう。君のことを言っているのではない。〈「ごめんね」を朝言えなかった唇が夜に計っているタイミング/森田ちえ子〉唇の震えが伝わる。〈亡き母の大学ノートに残されし「今日もひとり」が胸締めつける/堀江悦子〉続きを読みたい。そのさきには絶対ひとりじゃないときがあるはず。小島ゆかり選第二席〈歩道橋を影絵のような少女らが夕陽を浴びて今渡りきる/加藤武朗〉「影絵のような」は歩道橋の陸橋部分で「今渡りきる」は階段の袂、時間の経過が景により描かれている。〈戻り来てこころの揺れを問はれたり料金不足の葉書の歌に/葛谷誠二〉たぶん六十二円。〈十五よりゲーテに惹かれ読み漁る書斎は森の如くひそけし/福沢義男〉きっと黒い森*1のようなひそけさ。古い文庫本の感じも含まれる。

*1:Schwarzwald

檜葉記(四)

第38回兜太現代俳句新人賞で私の「人曲」が最終候補十二作品に残り最終投票で五位だったと知った日、東海地区現代俳句協会青年部選の「翌檜篇」(23)『現代俳句』令和二年十一月号を読む。〈ため息の色と思へり虞美人草/村山恭子〉ちょっと情念の濃いため息、史記を踏まえている。〈あぢさゐの哀しきものの密集す/福林弘子〉〈ゆたかなる記憶ありけり蟬の穴/福林弘子〉は「哀しき」「ゆたかなる」が言い過ぎのようで、季語と絶妙に合いかつずれていて気持ちいい。〈水を差す男に揺れて水中花/八木茂都子〉「水を差す」が複数の意味にとれて良い、男女の関係とも読める。〈赤紫蘇のゆがいてただの葉に戻る/後藤麻衣子〉「ただの葉」という言い切りが快い。浜松市内の種物屋で、ちぢれていない赤紫蘇は愛知県独自の種で他では売っていないと聞いたことがある。

山田航『さよならバグ・チルドレン』ふらんす堂

浜松百撰十二月号にエッセイが載ると通知があった日、『さよならバグ・チルドレン』を読む。〈調律師のゆたかなる髪ふるへをり白鍵が鳴りやみてもしばし/山田航〉コンサートではない点がポイントだろう。個人宅であればたぶん無人だろうし、コンサートホールであっても聴衆はほぼ無人であってほしい。〈花火の火を君と分け合ふ獣から人類になる儀式のやうに/山田航〉火と入墨は人類文明の特徴。〈青空に浮かぶ無数のビー玉のひとつひとつに地軸あるべし/山田航〉つまらない存在ひとつひとつに幸あれと祈るような。〈真つ白なことばが波に還つてもこの国道は続いてほしい/山田航〉僕たちの退路としての国道。〈水飲み場の蛇口をすべて上向きにしたまま空が濡れるのを待つ/山田航〉すこし素行の悪い学校の水飲み場、希望。〈鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る/山田航〉飛び降りをするにも入場料は要るし、世知辛い。〈鳥が云ふ誰にとつても祖国とはつねに冬が似合うふものだと/山田航〉祖国とは遠くにありて今を悲しむためにある。北国で暮らしたことのある人の業のようなもの。〈貴意に沿ひかねる結果となりますがわたしはこの世で生きてゆきます/山田航〉生きるとは常に誰かの意に反することなのかもしれない、しかし生きる。誰かに好かれるために生きるのではない。