ふと〈結語への遠き道行き風船はいままだビルのなかばのあたり/中澤系〉が目に入り、高層ビルの中にある空洞を上がっていく黄色い風船を思う、そしてふたたび中澤系を読まなければならないと思った。〈駅前でティッシュを配る人にまた御辞儀をしたよそのシステムに/中澤系〉人に会って感謝したとき、または人に怒ったときにその人そのものではなく、その人の背後にあるシステムに対してその感情を当てるよう私たちは訓練されている。〈じゃあぼくの手の中にあるこの意味ときみの意味とを比べてみよう/中澤系〉同じ文でも人により意味は違うように解釈されるのだから、ひとまず手の中にある意味を比べて確認することからはじめよう。〈罪ならば 九段下より市ヶ谷へしずしずゆるき坂を上れり/中澤系〉そのゆるき坂には靖國神社があり、日本史の功罪について考えさせる。「しずしず」はすでに人生という刑に服さんとしている。〈未決囚ひとりひなかの快速にいてビールなど呷っていたは/中澤系〉未決囮の社会的宙ぶらりんと駅から駅への浮いた旅とはよく似ていて、さらにビールがよく似合う。〈生活を構築せよとある朝の冷たい水に顔を浸して/中澤系〉生活は余りに遠くなってしまった。生活は崩れゆくものであり、構築しようとする先からこぼれてしまう。いくら冷水で顔を洗ったとしても。〈ひょっとして世界はすでに閉ざされたあとかと思うほどの曇天/中澤系〉閉ざされているのではなく閉ざされ、もう終わったあとの世界で、ぼくらは、探しにいく。
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって 中澤系