Mastodon

以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

天道なお『NR』書肆侃侃房

ららぽーと磐田で靴を買った日、天道なおNR』書肆侃侃房を読む。〈砂粒は遠くとおくへ運ばれて生まれた街を忘れてしまう/天道なお〉砂粒のように生まれ、砂粒のように旅をして、そして摩耗するように死ぬの。〈バスタブに白き石鹸滑り落ち深まる夜の遺骨であるよ/天道なお〉湯に落ちてやわらかくなる石鹸、屈折する光、手に届かないほどに遠い夜の遺骨として揺らめく。〈白シャツの衿尖らせて帰宅せり真水に浸しただ眠るべし/天道なお〉「衿尖らせて」そのためにゆえ疲れてしまった一日だった。〈ぬばたまのクレームコールいっさいの光およばぬ沼の底より/天道なお〉暗き消費者たちから明るい会社員への電話、その名はクレームコール。〈陽炎の彼方に見えし夏帽子どの子がわれの子になるのだろう/天道なお〉「どの子がわれの子になるのだろう」は陽炎を通して見えた未来、時空を超えた希望である。〈本のない図書館がよい幾つもの夢にやぶれた僕ら逢うなら/天道なお〉空いた書棚をふきぬける風が頬に心地よい。〈コットンのねむりの中でおさなごがやさしく握る虹の先っぽ/天道なお〉虹の先っぽを握るほどの小ささ、虹の儚さと指の未完成さとの共鳴がある。