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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

日下野由季『馥郁』ふらんす堂

新型コロナウィルスのパンデミック、そのただなかで日下野由季『馥郁』ふらんす堂を読む。〈金木犀己が香りの中に散る/日下野由季〉高貴さのゆえに己が香り以外は寄せつけず。〈花野ゆく会ひたき人のあるごとく/日下野由季〉その歩調が、歩幅が人に逢いたがっている。〈あをぞらに噴水の芯残りたる/日下野由季〉水は消えても芯は空に残る、記憶の残像として。〈一音をもて地にひらく落椿/日下野由季〉落下を「一音」と描写した鮮やかさ。〈鳥雲に入る灯台に窓一つ/日下野由季〉窓がひとつしかない灯台の内側の暗さ、それこそ鳥雲の寂しさ。〈句座果てて一人ひとりひとりに夏の月/日下野由季〉月は人が見る面ごとに月であり月面なのだろう。〈初明り差す胸深きところまで/日下野由季〉心の深奥まで初明りが照らすのは心がまっさらな元旦だから。

 

しやぼん玉こはれて草のうすみどり 日下野由季