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以太以外

病名は人間性や夕野分 以太

壬生キヨム『作中人物月へ行く』白昼社

入野町にできたじゃじゃの私設図書館に入ったという『作中人物月へ行く』を読んだ。〈ああこれは昔、郵便飛行士を殺した雨と同じ甘さだ/壬生キヨム〉サンテグジュペリの死を思う。〈大切な日のため持っておくんだよいつも避けてた薄荷キャンディ/壬生キヨム〉薄荷キャンディは食べずにポケットに入れてときどき見るおくもの。〈星を食べたこどもは見ればすぐわかる ここにいる子は全員逃がすな/壬生キヨム〉何を見れば「わかる」のか想像をかきたてる。〈いつの日か協力してもいいけれどできれば敵のままでいようよ/壬生キヨム〉敵のままでいるという親しさ。〈永遠におんなじ時間にやってくる点灯夫となかよくなりたい/壬生キヨム〉点灯夫におのおじさんとルビがあるのがその世界の住人っぽい。〈消印がいくつも押された封筒を渡すときだけ痛む心臓/壬生キヨム〉なぜだろう、通ってきた距離を思うからか。〈黒ねこのしっぽを切ったら正面がどちらかわからなくなったのだ/壬生キヨム〉尻尾が正面あるいは﹁正面を示す機能を持っていた。〈トの文字を四角く囲む男性のたくさんものを持てるてのひら/壬生キヨム〉図あるいは圖の略字、トは占術の卜めく、図書館は可能性を持つこと。〈本のない図書館が木のない森に作られてここにいないわたくし/壬生キヨム〉例えばそれは眠りのない夢のような。

二度目には神経質の司書を抱くぼくが村上春樹の僕なら 壬生キヨム