蠅について考えた。〈天の川バス停どれも対をなし/岩田奎〉上りと下りの対、宇宙と時刻表の調和のような。〈合格を告げて上着の雪払ふ/岩田奎〉胸の高鳴りを抑えて、平静を装うかのように雪を払う。〈東国のほとけは淡し藤の花/岩田奎〉深大寺と詞書。比較先は京都や南都だろうが、もちろん西方浄土との比較でもある。〈ぺるしあに波の一字や春の星/岩田奎〉波斯、ペルシア湾の波なども思う。〈晩夏光鍵は鍵穴より多し/岩田奎〉鍵は詩、鍵穴は詩を求める人だ。〈寒卵良い学校へゆくために/岩田奎〉受験戦争とか教育ママとかを思うの。〈苔生して滝の弱まるあたりかな/岩田奎〉苔と滝って変形する時間の流れが違う。滝が弱まって苔時間に接近する感じがある。〈稲の花ラジオは馬の名を呼んで/岩田奎〉郊外感をたたみかけるように。〈ただようてゐるスケートの生者たち/岩田奎〉形容に合う死者ではなく生者という俳。〈冬空のざらついてゐるラジオかな/岩田奎〉形容詞関係のアクロバット。〈立ちて座りて卒業をいたしけり/岩田奎〉立ちて座りては卒業式の省略であるし、学校時代の省略でもある。〈二種類の吸殻まじる夕焼かな/岩田奎〉夕刻まで続く長談義があったのだろう。物の理についてとか。〈桐生高桐生女子高秋の風/岩田奎〉桐の花より桐一葉か。たしかにキリュウという語感はどこか秋めいてはいる。