ときどき季語は添え物にも思えてくる。でもその添え感を好ましくも思えてくる。〈工場を抜けて河口や秋の暮/相子智恵〉海際にある工場地帯だろう、広々とした秋の暮が思い浮かぶ。〈地下鉄の風に向かふや卒業す/相子智恵〉地下鉄のやや生ぬるい風が未来だ。〈ハンガーにハンガーにかけて十二月/相子智恵〉できそこないのクリスマスツリー感がある。〈競馬場より人黒々と出でて冬/相子智恵〉全体的に暗めな服を着た人たち。負けたから気持ちも暗いのか。〈鰯の群幾千の口開きたり/相子智恵〉劇的な瞬間、プランクトン群へ達した鰯の群の細やかな動きを描く。〈銀漢や唸りて自動販売機/相子智恵〉天の光るものと地の光るものとの共鳴である。〈やがてわが身を我出てゆかん息白し/相子智恵〉魂のような白い息、気息πνεῦμα。〈ぬらくらと進む台風神も酔ふか/相子智恵〉神という実体substantiaのとある様態modusとしての、神の擬人化としての台風を描写する。〈遠きテレビ消すリモコンや去年今年/相子智恵〉年越しのお祭りのようなテレビを消して歳晩の静寂が訪れる。〈短夜の脂に曇るナイフかな/相子智恵〉夏のなかで冷たいのはナイフばかりとなった。そこに肉の脂がぎらぎらと残る。
プリンやや匙に抵抗して春日 相子智恵