以太以外

蒼褪めた巨漢は笑う水澄んで 以太

鈴木ちはね『予言』書肆侃侃房

子規記念博物館へ葉書を出した日、『予言』を読む。〈ザハ案のように水たまりの油膜 輝いていて見ていたくなる/鈴木ちはね〉曲りくねって豪奢に輝く油膜? そういえば、まだ東京オリンピックやっていない。〈どんぐりを食べた記憶があるけれどどうやって食べたかわからない/鈴木ちはね〉遺伝子に刻まれた原初の記憶というより、きっと絵本ですりこまれた記憶だろう。〈炊飯器の時計がすこしずれている 夏はもうすぐ終わってしまう/鈴木ちはね〉炊飯機の時計と夏の果、時という共通項でくくれるんだろうけれど、くくりきれなさが心地よい。この歌集で一番好きかも。〈ものすごい星空の下歯を磨くこともあるのかこの人生に/鈴木ちはね〉人らしく生きられない時代の、人生の星の時間として。〈交番に誰もいないのをいいことに交番の前を通りすぎた/鈴木ちはね〉「いいことに」が非凡。〈パンクしてしまった自転車を遠い記憶のように押して帰った/鈴木ちはね〉「遠さ」は人には理解できない。理解できないそれを触れるモノで表した。〈山眠る よく燃えそうな神社へと人びとの列ときどき動く/鈴木ちはね〉「よく燃えそうな神社」って神社としていいね。きっと初詣。〈パトカーの後部座席の質感をときどき思いだしたりしている/鈴木ちはね〉質感はそのときの感情とかのこと。〈静銀のあずき色した看板のうしろに正月の青い空/鈴木ちはね〉静岡銀行はむかしからお堅い、ほかの銀行よりも堅い。〈地下鉄の駅を上がってすぐにあるマクドナルドの日の当たる席/鈴木ちはね〉マクドナルドという悪所にある幸福の在り処。〈少しだけ未来のことを言うときの痛みのような静けさのこと/鈴木ちはね〉宿命論者になれない僕たちの未来への不確かな悲しさ。〈火をつけて燃やす大夫のアイコスと言えば三人笑ってくれた/鈴木ちはね〉レトロニムの逆かな。

 

予言

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